新幹線の自動運転 JR東日本、JR西日本、JR東海の考え方の違い杉山淳一の「週刊鉄道経済」(6/7 ページ)

» 2023年05月26日 12時47分 公開
[杉山淳一ITmedia]

自動運転は「リアルタイムで運転曲線を書き直す」

 短距離区間の運転曲線は単純だ。線路に示された最高速度までスピードを上げて、あとは惰行。駅に近づいたらブレーキをかけて速度を落とす。速度の山はひとつだけ。惰行運転が長いほど省エネ運転になる。しかし新幹線は長距離運転のうえに、惰行中に風の抵抗を受けて速度が下がっていく。だから運転曲線は加速と惰行を繰り返す波形になる。

 東海道新幹線の自動運転は、定められた運転曲線を正確になぞるように列車を走らせる。それに加えて、運転曲線を常に再計算しており、0.1秒ごとに書き換える。

 次のチェックポイントや停車駅に定時通過、定時到着できるかをリアルタイムで確認し、風の抵抗が強くて速度が下がり気味なら、その先の区間の速度を上げて回復する。突然に徐行区間が発生した場合も瞬時に計算して、最高速度で走る距離を増やす。事前に速度を上げて定時到着となるような運転曲線が描かれ、列車は新たな運転曲線をなぞって走る。つまり、ベテラン運転士の最善のテクニックを自動的に行う。

走行中に徐行運転が指定された場合、瞬時に運転曲線を変化させる(39秒付近)。新たな運転曲線に従って自動運転が継続される
「変化後」の動画モニターが示していたこと(筆者撮影の写真に、筆者が注釈を付記)

 急に徐行が設定されると列車は速度を上げていった。車体が小刻みに震えた。少し気になる程度だけれど、少し乗り心地は悪くなった。この乗車体験で「東海道新幹線は常に最高速度で走っているわけではなく、乗り心地も配慮した速度で走る」と気付いた。この区間だけかもしれないけれど、運転曲線は始めから最高速度に達していなかった。浜松〜静岡間は短距離で「ひかり」のダイヤに近いこともあったかもしれない。

 東海道新幹線の最高速度は時速285キロメートルだ。しかし実際にその速度で走る区間は短い。本当は最高速度で走る区間を増やしたい。所要時間も短縮できる。しかし最高速度を重視したら、急加速が続き、乗り心地が悪いまま走り続け、駅に着く前にガクンと速度を下げるような運転になる。それでは乗り心地も悪いし、車両も線路も消耗するだろう。その経費が新幹線特急料金に反映される。

 だから平時の運転曲線は、乗り心地や省エネルギーも加味して設定されている。東海道新幹線で所要時間を1分短縮しようと思ったら、車両の乗り心地や加減速性能、耐久性、線路状況、エネルギー消費量など、あらゆる部分を改善する必要がある。

 JR西日本の報道資料でも「自動運転技術による安全性と輸送品質向上」とあった。輸送品質には定時性だけではなく、乗り心地も含まれるのだろう。

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