新幹線の自動運転 JR東日本、JR西日本、JR東海の考え方の違い杉山淳一の「週刊鉄道経済」(5/7 ページ)

» 2023年05月26日 12時47分 公開
[杉山淳一ITmedia]

運転曲線とは何か

 自動運転装置の作動状況も確認できた。運転士が発車ボタンを押す前に「運転曲線」が作成される。運転曲線とは、ヨコ軸に距離、タテ軸に速度を示したグラフだ。ここに列車の走行予定が線で描かれる。列車の距離と速度はゼロから始まり、時間の経過とともにグラフは上昇する。速度を維持すればグラフは平らになり、速度が下がるとグラフも下がる。次の駅に到着すると速度はゼロになる。

東京発大阪行き「のぞみ」の運転曲線(出典:JR東海、自動運転試験時の配布資料)

 運転曲線は列車の性能や線路の状況によって変わる。列車の性能が高ければ運転曲線は急上昇になるし、途中に急カーブがあれば速度を下げる。列車の性能のほかに、乗り心地や省エネ運転などの運転技術が加味されて、その線区のベストな運転曲線がつくられる。この運転曲線が導いた所要時間が列車ダイヤに反映されて、時刻表として私たちの前に現れる。

 運転士は運転曲線ではなく、運転曲線を元に作られた「運転士行路表」を使う。そこには駅などのチェックポイントの通過予定時刻が秒単位で示されている。ピッタリ予定時刻に通過できれば運転曲線通り、遅れたら少しスピードを上げて回復する必要がある。このほか、定時運行するには景色も含めて、いつ、どこを、どんな速度で運転するかを練習している。だからどの運転士も列車は安定して定時運行できる。

 運転曲線は同じ区間の列車によっても違う。例えば「のぞみ」の場合、ベストコンディションで走行できる「のぞみ」は最速だけど、列車によっては前方に「こだま」「ひかり」などの遅い列車がいるから、追いつかないように速度を落とす必要がある。もともとそういうダイヤが組まれていて、もちろんこれは列車ごとの行路表に示されているから、その通りに走れば問題ない。

列車ごとに走行条件が異なる。運転曲線も列車個別に用意される(出典:JR東海、自動運転試験時の配布資料)

 問題は臨時徐行区間の発生だ。保線工事の都合であらかじめ徐行区間が決まっている場合は、ほかの区間の速度を上げることで、徐行していても次の駅に定時に到着させる。

 徐行区間が乗務前に分かっていれば、行路表に反映されている。しかし、強風や豪雨など悪天候で急に徐行区間が指定され、運転中に指令所から連絡を受けた場合はどうするか。運転士は瞬時に判断して「そこで徐行するなら、手前のこのへんから速度制限ギリギリまでスピードを上げよう」と考える。ベテラン運転士は的確に判断して、定時運行を維持できる。

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