マーケティング・シンカ論

【後編】明石ガクトに聞くTikTok売れの法則 認知施策は不要、「興味からズドン」で購買へ至るカラクリ(1/2 ページ)

» 2023年08月22日 08時00分 公開
[西田めぐみITmedia]

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 マーケティングの主戦場がマスメディアからWebメディア、ソーシャルメディアへ移行してしばらくたつ。インターネット、特にSNSはもはや社会インフラだが、その舞台で求められるマーケティング視点として昨今キーワードになっているのが「コミュニティー(コミュニケーション)」「熱量(エンゲージメント)」だ。本記事では【前編】に続いて、ワンメディア代表で動画界のカリスマである明石ガクト氏と、同社で取締役を務める余頃沙貴氏に動画マーケティングの現在地と成功の秘訣を取材する。

【前編】明石ガクトに聞くTikTok売れの法則 ショート動画がもたらしたマーケティングの新潮流

動画マーケティングの最重要指標「コメント」 “良い動画”とは何か

 TikTokなどのSNSを対象に動画マーケティングを行うにあたり、「良い動画を届けるだけでは意味がない」のは【前編】で説明した通りだ。これはムーブメントを起こす際に必要な熱量が、表面的なクリエイティブだけではもはや生まれないためである。

 「クリエイターが持つコミュニティーが求めているのは、動画の質ではありません。普段からクリエイターが撮って投稿している動画が好きで集まっているので『プロが撮影した動画』は誰も見たいと思っていないんです。私たちが制作に携わる動画マーケティングでも、撮影自体は普段通りクリエイターが行っています。

 重視したいのはそこではなく、会話=コメントです。『動画を起点に、コメントをどう生むか』検討することは、SNS上の動画マーケティングにおいて最重要指標の一つです」(余頃氏)

photo 取材した明石ガクト氏(左、ワンメディア 代表取締役)と余頃沙貴氏(右、ワンメディア 取締役/ビジネスプロデュース本部/ビジネスプロデューサー)。明石氏の著書『動画2.0』(幻冬舎)、『動画大全』(SBクリエイティブ)は好評発売中

 TikTokに限らず、SNSを主戦場に動画マーケティングを検討する上では「良い動画とは何か」という認識をあらためる必要がある。明石氏は「TikTokを運営するバイトダンスも『良いコンテンツ(動画)とはコメント欄がマイクロコミュニティー化してるものである』と明確に定義している」と語る。

 「SNS上でコメントをするという行為は、井戸端会議で発言するよりもハードルが上がります。実際にテキストを打ち込んで、例えアカウント名だけだとしても不特定多数の目にさらすことになるわけですから。それでもコメントを誘発できる力を持つ動画を作るために必要なのは、本格的な撮影やクオリティーコントロールよりも『この商品PRに最も適したコミュニティーを持つクリエイターは誰か?』『そのクリエイターにどう動画を撮ってもらえばコメントが増えるか?』といった視点を持つことです」(明石氏)

 コメントを誘発するための仕掛けとして分かりやすい例を出すと、動画の最後にクリエイターが直接「皆さんもおすすめの利用方法があったら教えてください」といった呼びかけをする方法がある。

 「YouTubeでも、動画の冒頭や最後に『チャンネル登録、コメントしてください』とアナウンスする人が多いと思いますが、あれを言うのと言わないのとではコメント数が全然違ってきます。コメント数はタイムラインのおすすめに表示されるかどうかにも関わります。単純で当たり前と感じる仕掛けかもしれませんが、そういったプラットフォームのアルゴリズムを理解し運用することは非常に重要です。

 以前まで、広告動画は『この映像の、この感じがかっこよくていいよね』といった尺度でしかクリエイティブの良しあしが語られてきませんでした。でも、そういった過去の常識が通用しない物理法則がSNS上には存在します。それをうまく使いこなす工夫なくしてマーケティングに動画を活用するのは、絵に描いた餅のようなものです」(明石氏)

「認知」がない? シン・マーケファネルは「興味からズドン」

 そもそもテレビCMや雑誌広告といったマスメディアでクオリティーコントロールをしているのは、質の高いコンテンツを出すことで認知を広め興味関心を引き出し、比較検討に進んでもらうためだ。しかしTikTokのような新興メディアのマーケティングファネルでは「『認知』『比較検討』はあまり重視されない」(余頃氏)傾向にあるという。

photo 既存メディアと、TikTokなど新興メディアにおけるマーケティングファネルの違い(出所:同社提供資料より)

 「既存メディアと新興メディアではマーケティング時の“届け方”に違いがあります。既存メディアでは、認知、興味関心、比較検討、購入申込という4つのファネルが用いられ、それぞれでメディアとコミュニケーションの方法を分けて施策を検討してきました。各ファネルに何人いて、何をしたら何人に当たったかというリーチ(到達力)が大事です。

 一方でTikTokのような新興メディアはレコメンドエンジンのアルゴリズムで動いています。明石が話すように『いいね』やコメント数でほかの人のおすすめに出てくるかどうかが決まるので、認知されるために最初に狙うべきはエンゲージメント向上になります。『いいね』やコメント数を増やす=エンゲージメント向上施策を検討すると、必然的に認知が上がっていくためです」(余頃氏)

 TikTokやTwitterは、それぞれのレコメンドエンジンを持っている。個人の好みに合わせておすすめに出てくる内容が変わるので「タイムライン(おすすめ)に出る動画は基本的には興味関心があるもの」(明石氏)ということになる。つまりエンゲージメント向上施策に注力することでおすすめに出てくるようになり、認知へのリーチ不要で興味関心に到達。さらに、コメント欄を見れば口コミ確認が完了するため「『興味からズドン』で購入申込に至る」(余頃氏)のだという。

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