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戦略を実現できないワケは「現場の納得度の低さ」 どう手を打つべきか?トライバルメディアハウスのマーケ戦略塾(3/3 ページ)

» 2023年09月13日 08時00分 公開
[池田 紀行ITmedia]
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見るべきは、コントロール可能な要因

 第3回「チームのKGIを「売り上げ」に設定してはいけない では、何が適切か?」で解説した通り、過去に自社商品を購入したものの満足度が低かった顧客の「リピート購入」を、広告や販促といったマーケティングコミュニケーションだけで促進することはできません。

 それにもかかわらず、商品開発(改善)に手や口を出せない宣伝部やマーケティング部が(トライアル売り上げもリピート売り上げもごっちゃにされた)売上予算目標を課されます。商品力が弱ければリピート売り上げは増えず、結果として売り上げ全体を引き上げることは困難です。なのに「とりあえず、よろしく」と責任だけ負わされるケースが多くの現場で見られます。

 これでは、人(担当者)はたまったものではありません。仮に社や部が立てた戦略の筋が良かったとしても、「売り上げを上げろと言うのなら、せめて商品力を上げてから(改善してから)言ってくれよ!」「宣伝や販促の力でトライアル売り上げの獲得は目標通りだけど、商品力が低いから誰もリピートしてくれない。こんな状態でどうしろって言うのだ!」といった具合です。こんな「不満タラタラ」の状態で、高い戦略実行力を得ることは難しいでしょう。

 大事なことなのでもう一度言います。部署やチームのKGI(Key Goal Indicator:重要目標達成指標)は「売り上げ」ではなく、(1)売り上げと因果または相関する、(2)当該部署の努力で可変な指標をKGIとしてください。

 宣伝部なら認知度、想起率、商品理解度、購入意向などが「責任を追える(責任を負うべき)評価指標」です。宣伝部が「トライアル売り上げ」の責任を負えない理由は、例え顧客が欲しいと思ってお店に行っても、店頭に置いてなければ買えない(売り上げにつながらない)ためです。同様に、配荷率の向上を使命に持つ広域流通部などは、配荷率の責任は負えますが「売れるかどうか」は宣伝などによるコンセプトの訴求力、商品パフォーマンスによる満足度(継続購入率)に依存するため、これもまた「売り上げ」に責任を持てません。

 筋の良い戦略の実現可能性は、それを実行する人のやる気や情熱に影響され、やる気や情熱は「自分たちが負っている数値目標の納得度(=自分たちの努力で達成可能な目標なのかどうか)」や、それに関連する自身の人事評価への納得度に影響を受けます。

 自らが負っている責任(数値目標)は、自分やチームや部署が持つ機能で達成可能なのか? が整合していない戦略は、真に「筋の良い戦略」とは言えません。ロジックや法則などで策定される戦略も、結局実行するのは人間なのです。


 これで、本連載「筋の良い戦略が描けない理由」の前半戦に当たる「よくある問題」は終了です。次回から「そもそも問題」に話題を移し、まず始めに「治すべき病気を正しく診察・診断する前に、流行りの薬を飲んでしまう問題」について解説します。

著者紹介:株式会社トライバルメディアハウス代表取締役社長 池田 紀行

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1973年横浜生まれ。マーケティング会社、ビジネスコンサルティングファーム、マーケティングコンサルタントなどを経て現職。大手企業300社以上の広告宣伝・PR・マーケティングの支援実績を持つ。宣伝会議マーケティング実践講座 池田紀行専門コース、JMA(日本マーケティング協会)マーケティングマスターコース講師。 年間講演回数は50回以上で、延べ3万人以上のマーケター指導に関わる。近著『売上の地図』(日経BP)、 『自分を育てる働き方ノート』(WAVE出版)ほか著書・共著書多数。Twitter:@ikedanoriyuki


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