マーケティング・シンカ論

なぜ「スイカゲーム」は大流行したのか 「作業ゲー」がバズる2つの要因廣瀬涼「エンタメビジネス研究所」(2/3 ページ)

» 2023年10月26日 09時00分 公開
[廣瀬涼ITmedia]

 「サクッと感」は2つある。(1)プレイをするのに技術を必要としない点と(2)隙間時間にできる点のことだ。学生時代を思い返してほしい。例えば「大乱闘スマッシュブラザーズ」シリーズをプレイしたことがあるだろうか。ゲームを持っていたり、プレイに慣れていたりする人と対戦しても全く歯が立たず、もどかしい思いをしたことがあるのは筆者だけではないだろう。

 格闘ゲームやレースゲーム、スポーツゲームなどは、ゲームの所有者のアドバンテージが大きく、初見のプレイヤーや、ゲームに割く時間が少ないプレイヤーにとっては、ストレスに感じる瞬間も多い。そのようなスキルのあるプレイヤーと対等に対戦するには、自身もうまくなる必要がある。ドラクエなどのRPGや、ポケモンなどの育成ゲームも、時間をかけてプレイをすることが前提だ。試行錯誤したり、攻略サイトを見たりなど、ゲームを遊ぶ上でインプットが必要になる。こうしたスキル向上とインプットにかかる「手間」が消費者との距離を生んでいると筆者は考える。

photo 写真:ゲッティイメージズ

 そうでなくても、映画を倍速視聴したり、1話無料のマンガアプリを流し見したり、コンテンツがノルマのように消費されている時代だ。タイパ志向の消費者も増え、一つ一つをじっくり消費するよりも、スーパーの試食コーナーのように、いろいろな興味対象に手を出しては「手間をかけずにやったつもりになる」ことで十分満足できてしまう。そのようなコンテンツ消費が行われている中で、「手間」を必要とするゲームはすこぶるタイパが悪い。言い換えれば、誰でもすぐに遊べる「サクッと感」があれば、普段ゲームにそこまで熱心になれない層でも、手を出しやすいわけだ。

 隙間時間にできる点も大きな要因だ。前述した通り、とにかく私たちの生活には情報があふれている。入浴中でも、トイレにいるときもスマホで情報を収集できる。手持ち無沙汰な「間」をスマホで埋めることが習慣化しており、自身が消化したい「間」の中で、完結できるものを無意識に選んで消費するようになっている。だからTikTokやYouTubeのショート動画のように、短尺・起承転結のコンテンツが支持されるわけだ。

 動画コンテンツやマンガに限らず、ゲームでも空いた時間にサクッと完結するような、時間に追われないものが好まれていると筆者は考える。この傾向は急に出てきたものではない。過去(特にスマホゲームのブーム)を見ると、刀でフルーツを切っていく「Fruit Ninja:フルーツニンジャ」(2010年リリース)、障害物を回避しながら走る「Temple Run:テンプルラン」(11年リリース)や「ミニオンラッシュ」(13年リリース)、動物を高く積んでいく「どうぶつタワーバトル」(17年リリース)、同じ数字を組み合わせて数字を大きくしていく「2048」(14年リリース)などが流行した。

 どれも「手間を必要とせず」「隙間時間にできる」という2つのサクッと感がヒットの要因にあったといえるのではないだろうか。スイカゲームもそのような理由から、広く流行したと考えられる。

photo フルーツを順番に組み合わせていくと、最終的にスイカにたどり着く=任天堂の公式サイトより

 もちろん極めているプレイヤーはとんでもないスコアを叩き出している。筆者は、スイカを1つ作ることで精いっぱいだが、ノウハウを駆使してスイカを2つ作る猛者も現れた。しかし、あくまでも、隙間時間にカジュアルにプレイをする側面で見れば、生活と生活の間での息抜きにもなるし、何よりゲームしたつもりにもなれるわけだ。

 タイパが追求され続ける現代消費社会では、質よりも消費した事実が満足につながることも多い。何十分もある動画を見るよりも、中身が全くない、技巧を凝らしていないショート動画が支持される背景には、「内容よりもその時間で何本も動画を消化できた」という達成感があるのかもしれない。映画など時間を長く擁するコンテンツは、金銭的にも時間的にもまとまった消費が必要とされるため、「損をしないように消費する」ことを念頭に置いて選ばれる。

 短尺のコンテンツは、結果的にまとまった時間が浪費されたとしても、一つ一つのコンテンツ単位で見れば、「時間に対して損をした」「無駄だった」と思う間もなくコンテンツが終わるため、「損を回避しなくてはいけない」という感覚が生まれにくい。この点も、隙間時間に選ばれる要因なのかもしれない。

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