マーケティング・シンカ論

なぜ「スイカゲーム」は大流行したのか 「作業ゲー」がバズる2つの要因廣瀬涼「エンタメビジネス研究所」(3/3 ページ)

» 2023年10月26日 09時00分 公開
[廣瀬涼ITmedia]
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もう一つの要因は「非再現性」

 もう一つは「非再現性」である。情報があふれる現代社会で、私たちは必要な情報をスワイプしながら取捨選択していく。流れてくる情報の量が多いということは、興味を持つ(消費したいと思う)きっかけも多いことを意味している。時間的にも金銭的にも消費できる限度があるため、他人のレビューや、場合によってはネタバレなどを見ながら「わざわざ自身が消費する必要があるのか」検討していく。

 そのような中で、YouTubeなどのゲーム配信者は「プレイをして内容を教えてくれる」「自分ではできないようなスキルを使って鮮やかにクリアしてくれる」など「自身の代わりにゲームをすること」が期待されている。しかし、ゲームを仕事にしている彼らが、スイカが1つも作れなくて叫んでいるのを見れば「それはそれで気になる」のだ。もともと、親子のコミュニケーションに使われるレベル感のゲームであるはずなのに、大の大人たちが「スイカができた、できない」で騒いでいるのである。

photo Switch版は200万ダウンロードを突破した=Aladdin Xのニュースリリースより

 前述した、過去に流行したスマホゲームも、スイカゲームも、シンプルなルールで誰もが簡単にプレイできるものの、運要素が大きく思い通りにならないことが多い。うまくいくときはうまくいきすぎるため、そのときの成功が脳裏に焼き付くと、失敗しても「今回はたまたまうまくいかなかっただけ」と思い、「あのときうまくいったのだから、またできる」という根拠のない自信がリプレイボタンを押させているのではないだろうか。

 スイカブームのヒットの要因には、YouTuberらのプレイ動画の切り抜きがSNSに投稿され、広く認知されたこともある。そのようなプレイ動画を見て「なんでこんな簡単なことができないんだ」「自分の方がうまくできる」「さっき成功したときのようにやればいいのに」と思うように、外野だからこそ生まれる感想が、自身がプレイする動機になっている。

 いざプレイしてみると思うようにいかないし、ハイスコアを出しているプレイヤーのまねをしているつもりでもうまくいかない。同じ順番でフルーツが落ちてくるわけではなく、それに自身が毎回順応しなくてはいけないという非再現性も、“スイカの生産者”を熱くさせている要因なのかもしれない。

長らく支持されているマージゲーム

 スイカゲームのように、アイテムを融合させて新しいアイテムをつくるパズル(マージゲーム)は、これまでも長らく支持されてきた。このこともヒットの要因といえるだろう。

 マージゲームは(1)スピード型と(2)コツコツ型に分類できると、筆者は考えている。(1)スピード型は、スイカゲームや「2048」のように、限界までマージを繰り返してスコアを競うゲーム。(2)コツコツ型は、広告で有名な「マージマンション」のように、1つのアイテムを錬成するために、ドロップさせたアイテムを時間をかけながら錬成していくタイプのものだ。

photo 広告で有名な「マージマンション」=画像はApp Storeより

 筆者自身、マージマンションのプレイヤーでもあるが、1つの課題をクリアするのに1カ月以上かかったこともある。電車での移動中など隙間時間を利用して、アイテムをドロップさせて錬成するという、作業ゲーにすぎないものだ。コツコツ時間をかけながら課題が達成されていくことに何ともいえない達成感を味わっている。

 どちらにせよ消費者は、お金の面でも時間の面でも損を生みにくい、隙間時間で完結し、技術を必要としない、でもちょっとした達成感を覚えられるようなコンテンツを「娯楽」と捉え、向き合っているのかもしれない。

著者紹介:廣瀬涼

1989年生まれ、静岡県出身。2019年、大学院博士課程在学中にニッセイ基礎研究所に研究員として入社。専門は現代消費文化論。「オタクの消費」を主なテーマとし、10年以上、彼らの消費欲求の源泉を研究。若者(Z世代)の消費文化についても講演や各種メディアで発表を行っている。テレビ朝日「羽鳥慎一モーニングショー」、TBS「マツコの知らない世界」、TBS「新・情報7daysニュースキャスター」などで製作協力。本人は生粋のディズニーオタク。瀬の「頁」は正しくは「刀に貝」。

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