マーケティング・シンカ論

暖冬でも爆売れ、山善の「着る電気毛布」 数万件のレビューを分析して見えた改善点(2/4 ページ)

» 2024年01月04日 08時00分 公開
[菊地央里子ITmedia]

数万個の在庫が一瞬で完売

 こたつに機動性を加えた暖房アイテムを実現するため、加美さんは電気毛布に着目した。「一般的な電気毛布の多くは、長方形のシンプルなデザインです。そのため、ベッドに敷いたりひざかけとして使用したりする方が多く、用途が限られている印象がありました」(加美さん)

yamazen くるみケットもひざかけとして利用可能(同社提供)

 どうすれば、電気毛布のイメージを覆すことができるのか。「新しい形や使い道で『何これ⁉』と思われる電気毛布を開発すれば、 中高年を中心としたすでに電気毛布を使用しているユーザーや、使用したことがない若年層にも刺さると考えました」(加美さん)。当時、加美さんは商品開発の担当になったばかり。そのため既存の商品に対して、新任者ならではの視点を持つことができ、電気毛布の問題点に気付けたと振り返る。

 開発時には一からデザインを見直し、従来の電気毛布にない筒状の形状を採用。こたつに入っているときの温かさと、着たまま動ける機動性を両立した。

yamazen くるみケット 全体像(同社提供)

 一方で「着る」に特化しすぎないことにもこだわった。「着ることに特化するとユーザーの使用シーンを限定してしまいます」(加美さん)。試行錯誤の結果、サイドファスナーを設けたことで、着る以外にもごろ寝用やひざかけ用といった3WAYでの使用を可能とした(意匠取得済)。

yamazen 3WAYで使用可能(同社提供)
yamazen 「着る」に特化しすぎないことにもこだわった(同社提供)

 また、軽い着心地を実現するため、ヒーター内蔵型を採用。部品点数をギリギリまで少なくし、軽量化に成功した。清潔に保てるよう、洗濯機(ドラム式は不可)での丸洗いも可能とした。

 約半年の開発期間を経て22年9月に初めて発売したところ、「こたつにくるまれているような感覚が味わえる」「着たまま動いて家事ができる」と人気を集めた。同社の予想を上回る売れ行きを記録し、用意していた数万個の在庫はあっという間に完売した。

yamazen 左:22年モデル 右:23年モデル(編集部撮影)

 発売前、社内からは懐疑的な声もあったという。「弊社では数十年近く電気毛布を展開してきましたが、くるみケットのような商品は初めてでした。そのため『こういうアイテムを売り慣れていない』『売るとしても、EC向きなのでは?』といった意見もありました」(加美さん)。だが、発売前の5月、サンプルを展示会に出品したところ、取引企業の多くから好意的な意見が集まり「これは売れる!」と自信につながったという。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.