育児期テレワークのニーズはどのくらい? 子が3歳になった後もさまざまな“壁”(4/4 ページ)

» 2024年01月17日 14時40分 公開
[今井昭仁ITmedia]
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子育て支援施策のターゲットは女性のみなのか

 こうした育児期の就業者を念頭に置いた人事施策を考える際、しばしば争点となるのがターゲットは女性か、という点である。

 そこで次に、図2を男女別で整理し直した図3を見てみよう。これを見ると、確かに女性のテレワークニーズは、男性と比べて全般に高いことが分かる。例えば、同居の子が「3歳未満」では、女性で43.7%、男性で29.6%がテレワークを希望しながらも、実際にはできていない。この女性のニーズが男性を上回る傾向は「3歳以上6歳未満」や「小中学生」などでも同様である。

育休 図3:同居する子の年齢層別テレワークニーズ(男女別)(出所:パーソル総合研究所作成)

 しかし、この女性就業者のほうが男性就業者よりも高いニーズを記録しているという結果を基に、テレワーク施策のターゲットとして女性を据えることは、少々早計かもしれない。というのも、女性が育児を主に担い、それにあわせた働き方をしている現状が、女性のテレワークニーズを高め、この結果を導いている可能性があるからだ。

 この推論が正しいとするならば、男性による育児が広がるほどに、男性就業者のテレワークニーズも今後高まっていくと考えられる。このニーズは、男性の育児休業取得が推し進められている現在、想像以上に早く高まっていく可能性がある。この点を念頭に置くと、テレワーク制度を検討する際に、育児期の女性をターゲットにするのでは不十分となり得る。

育休 (写真はイメージ、出所:ゲッティイメージズ)

 つまり、男性従業員と比べて、女性従業員が育児期のテレワークにより強いニーズをもっていることに着目して制度設計を行うと、育児期の責任や負担を女性のものとする価値観を強化しかねない。それは、男性の育児休業取得を推進する昨今の動向や、より広くはDE&I(ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン)の考え方と相反しかねない。こうしたことを避けようと考えるならば、制度設計の際には、現在のニーズがどのような価値観から形成されているのか、そしてそれを所与とすることによって生じる問題はないかといった点まで考慮する必要があるのではないだろうか。

まとめ

 本コラムでは、まず育児期のテレワークについての政策的な動向を確認した上で「第八回・テレワークに関する調査/就業時マスク調査」のデータをもとに育児期のテレワークニーズについて考えてきた。

 その結果として、まず3歳未満の子と同居する就業者のテレワークニーズは最も高いが、子が3歳となってからも一定のニーズが確認できた。また、男性にもテレワークを希望しながら、実際にはできていない就業者が一定割合で存在していること、そしてそのニーズは今後さらに高まる可能性があることに注意が必要だ。

 2024年中に見込まれる関連法令の改正によって、3歳未満の子と同居する就業者のテレワークは努力義務となるだろう。これを契機にテレワーク制度を見直す企業もあるのではないだろうか。その際に求められることは、現時点でのテレワークニーズだけでなく、広い視点から、一歩先を見据えながら制度設計を行うことだ。

今井昭仁

London School of Economics and Political Science 修了後、日本学術振興会特別研究員、青山学院大学大学院国際マネジメント研究科助手を経て、2022年入社。これまでに会社の目的や経営者の報酬など、コーポレートガバナンスに関する論文を多数執筆。

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