マーケティング・シンカ論

ネコへの投資、子ども超え 増えるネコ消費に隠されたユーザー体験グッドパッチとUXの話をしようか(2/3 ページ)

» 2024年02月22日 10時25分 公開

黒字回復したネコはんこに、来店誘うネコトレーディングカード

 愛猫家のさまざまな生活シーンにネコが入り込んでいるのはよく聞く話です。しかしどうやら最近は、雑貨やプライベートグッズを超えてビジネスシーンにまでネコが浸透してきているようです。ネコと共に暮らす人々が愛用しているサービスやネコグッズの売れ行きからも、その存在の大きさを感じることができます。

 例えば、オリジナル文房具を販売している城山博文堂は、ネコのシルエットを組み込んだ印鑑「ニャン鑑」で年間売り上げを一気に黒字回復させたのだとか。

ニャン鑑(画像:城山博文堂プレスリリースより)

 見た目は普通のはんこなニャン鑑ですが、押してみると漢字の中にたくさんのネコが隠されていることが分かります。ネコが字の形を損なわないようデザインされているのです。銀行印としても登録できるそうで、話題性や印影のかわいらしさだけではなく、実用性を兼ね備えているところも生活やビジネスシーンになじむ要素だと考えられます。

 面倒な押印作業も楽しくなりそうですし、漢字に隠れたネコに気付いた人も思わず笑顔になるかもしれません。行動経済学では「人々は相互利益を追求する傾向がある」とされており、自分だけでなく相手にも利益をもたらす行動や体験は人々に好まれ、相手との信頼関係を築くことや社会的なつながりを強化することにもなります(相互利益の原理)。

 仕事が忙しすぎてネコの手も借りたいときにニャン鑑を押してみたら、いつも怒ってばかりで少し苦手だった上司も実はネコ派だったことが判明! 上司もご機嫌で部のみんなも楽しく仕事ができる……なんてストーリーは漫画やドラマの世界だけかもしれませんが、煩わしい業務を楽しみながらやってみるのも悪くないはず。

 予約してからデザイン案が届くまで3カ月ほどかかることもあるようですが、自分の名前の漢字にはどんな風にネコが隠れているのだろうと想像してしまったら最後、どれだけ待ってでもニャン鑑が欲しくなってしまいます。

 一部の愛猫家たちに人気の「ニャンズカード」も、ネコの経済効果やビジネスシーンでの浸透を感じさせるモノのひとつです。

 ニャンズカードは「猫の世界の、猫の街。」をコンセプトに、SNSで人気な飼いネコを紹介している、レトロなデザインのトレーディングカードです。

 カード自体が商品になっているのではなく、ネコ社会に貢献している(と思われる)ホームセンターやドラッグストアのネコ用品に貼り付けられ、商品の販売促進を担う役割をしています。

 ニャンズカード上のQRコードをスマホで読み込むと、専用Webサービスが開き、スマホ上でカードをコレクションできます。またポイントを集めて景品に交換したり、保護猫活動に寄付したりすることもできます。

ニャンズカード(画像:nyansプレスリリースより)

 このニャンズカードを手がけているnyans社はネコの飼い主同士をつなぐサービス「nyatching」(ニャッチング)の運営をメイン事業としており、ネコによるネコのためのモノやコトを「ネコ目線」で生み出し続けることを大事にしているそうです。代表取締役(人)のほか、代表取締役猫もおり、全てのネコが「生まれてきて良かった」と思える世界を目指しているのだとか。

 「保護猫に寄付を!」と言われると少々ハードルが上がってしまう保護活動を、ネコにも飼い主にもメリットがある形で実施しており、代表取締役猫をはじめとするネコたちの活躍を、見る人がクスッと笑顔になるような目を引くクリエイティブで表現しています。参加者の心を捉え、結果的に世の中の保護ネコたちが救われる──まさに「ネコ目線」を実現しているといえるでしょう。

 また、ニャンズカードは小売店を味方につけていることも特徴のひとつです。消費者がどの小売店で買い物をするかは、利便性や価格などさまざまな変数に左右されます。どこでも買える商品を買ってもらう店に選んでもらうためには、どうすべきか。

 北海道を中心に展開するドラッグストアチェーン・サツドラ(サッポロドラッグストアー)は、Instagramなどで人気を集めている地元の「ニャンフルエンサー」のニャンズカードを作り、店頭に掲示したところ、ネコ好きの間で話題になりました。ニャンフルエンサーの拡散も相まって、消費者の来店動機の創出につながったそうです。

 どんなに話題になっても、いい商品であっても、小さな売り場しかなければ消費者の目にとまりません。店側はニャンズカードがついている商品を店頭の目立つ場所に置いたり、宣伝したりと工夫を施します。結果、消費者の購入体験の向上やついで買いの発生も期待できるかもしれません。このメーカーにも小売店にも消費者にもメリットをもたらす三方よしの考え方は、サービスをデザインする私たちUXデザイナーもよく考えている仕組みです。

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