マーケティング・シンカ論

マーケティング学習の「必読書44選」 300社超の大企業を支援したマーケターが推薦トライバルメディアハウスの「マーケティングの学び方を学ぶ塾」(3/4 ページ)

» 2024年03月06日 08時30分 公開
[池田 紀行ITmedia]
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ステップ5(象限F):個別の手法や概念を学ぶ

 ここから具体的な手法や概念の学習に入ります。本ステップの目的は、日々のマーケティング実務のパフォーマンスを向上させることですから、手法や概念の選択や学ぶ順番は、あなたの実務上の課題感に沿って決めて問題ありません。

 とはいえ、主要なテーマについて読んでおくべき本がありますので紹介します。推薦図書は18冊です。

・推薦図書15:流通経済研究所『インストア・マーチャンダイジング 第2版』

 売り上げに最も大きな影響を与えているのは「フィジカルアベイラビリティ」、つまり売り場(=配荷率)です。デジタルマーケターは売り場に関する知識が不足しているケースが目立つため、本書で「売り場の基本」をしっかり学んでおきましょう。

・推薦図書16:西口一希『たった一人の分析から事業は成長する実践顧客起点マーケティング』(翔泳社)

 マーケティングの目的は「お客さまに買っていただくこと」ですから、顧客理解や顧客戦略は重要テーマです。本書では、ひとりの顧客の意見から強度のあるアイデアを見つけ出す「N1分析」のほか、顧客ピラミッド×ブランド選好の2軸によって顧客を9つのセグメントに分類し、個別の戦略を最適化させる「9セグマップ」を紹介しています。顧客を「視る」解像度が格段に上がる一冊です。

・推薦図書17:芹澤連『“未”顧客理解』(日経BP)

 売り上げを増やすためには、既存顧客の離反防止だけでなく、必ず一定の割合で新規顧客を増やし、浸透率を高めていく必要があります。本書では、新規顧客「候補者」を “未”顧客(=まだ当該商品を知らない、知っていても興味がない層)と定義し、ここからライトユーザーを増やしていかない限り売り上げは増やせないと提唱しています。既存顧客重視の施策(=ファンマーケティング)への偏重は危険と警鐘を鳴らす一冊。

・推薦図書18:細田高広『コンセプトの教科書』(ダイヤモンド社)

 マーケティングだけでなく、企画・開発・営業・経営・起業の全てにおいて重要となるのが「筋の良いコンセプト」です。コンセプトの筋が悪ければ、マーケティングの基本となる「誰に、何を、どのように」もズレてしまい、高い成果を出すことは難しくなります。

 抽象的、掴みどころがない、センスが必要(センスの無い自分には無理)と捉えられがちなコンセプト開発の技法を、高い網羅性を担保しつつ、実に見事に分かりやすく解説してくれる素晴らしい一冊。

・推薦図書19:根本陽平、伊澤佑美『デジタル時代の基礎知識「PR思考」』(翔泳社)

 PR(マーケティング寄りのパブリシティ)を学ぶ一冊目として最適の書。タイトルの通り「PR“思考”」を学ぶ構成になっており、ど真ん中のPR(主にパブリシティ)の具体的ノウハウだけでなく、広告を含むマーケティングコミュニケーションの全てにおいて「PR的な思考」(=人やメディアが伝えたくなる情報設計のコツ)が解説されています。

・推薦図書20:本田哲也『パーセプション』(日経BP)

 (売れるポイントは)「認知」から「認識(パーセプション)」へ変わりつつあることを豊富な事例とともに解説する一冊。「プレファレンス(サイコロの目が出る確率)は同一パーセプション内の競争によって相対的に決まる」ため、自社商品がどのパーセプション内に属しているかが重要と解いています。PRを学ぶ上で欠かせない視点を提供してくれる一冊。

・推薦図書21:ロバート・B・チャルディーニ『影響力の武器[新版]』

 言わずと知れた大ベストセラー。人はどんなメッセージに影響を受けるのか、社会心理学や行動経済学とも隣接する「人の動かし方」がギッシリ詰まった一冊。ハードカバーで分厚いですが、分かりやすく解説されているため苦労なく読めます。全マーケター必読の書。

・推薦図書22:中野道良『新規顧客が勝手にあつまる販促の設計図』(翔泳社)

 タイトルは『販促の設計図』ですが、内容はB2Bマーケティングの基本を解説する本です。世には数多のB2Bマーケティング本がありますが、豊富で分かりやすい図版、的確かつ平易な解説は本書が一番です。B2Bマーケティングを学ぶ一冊目として最適の書。

・推薦図書23:遠藤直紀、武井由紀子『売上につながる「顧客ロイヤルティ戦略」入門』(日本実業出版社)

 既存顧客のLTV(Life Time Value:顧客生涯価値)を向上させるためのCRMの基本と、よくある(効果の出ない)CRMもどきにならないための金言があふれています。私も『売上には「良い売上」と「悪い売上」がある』という一節は、いろいろなところで引用させていただいています。「ファンマーケティング」を学ぶ前に読んでおきたい一冊。

・推薦図書24:山口義宏『デジタル時代の基礎知識「ブランディング」』(翔泳社)

 マーケティングROIを引き上げるブランド戦略は、もはやあらゆる商品やサービスのマーケティングにおける必須の取り組みとなりました。抽象度が高いブランド、ブランド戦略、ブランドマーケティング、ブランディング、ブランドマネジメントなどの概念を学び始める一冊目として最適なのが本書です。まずは「正しいブランディング」の概念や言葉の定義をインストールし、「ブランド」を理解するベース(基礎)をつくりましょう。

・推薦図書25:宮村岳志『ブランディング・ファースト』(クロスメディア・パブリッシング)

 大企業が取り組むブランド戦略やブランドコミュニケーション本が多い中、経営資源が限定的な中小企業でも取り組め、かつ「ブランディングはイメージ戦略ではなく経営戦略である」と提唱する一冊。

 「ブランディングの本質はインナーにある」と、従業員へのメッセージ浸透やコミュニケーションが重要との指摘も本質的です。中小・中堅企業だけでなく、スタートアップベンチャーの経営にも参考になります。

・推薦図書26:木村元『ブランド・パワー』(翔泳社)

 概念や手法の解説に偏りがちなブランド本が多い中、「ブランド力を数値化する」ことに特化した希少な一冊。ユニリーバ・ジャパンでスキンケアブランドを統括していた著者の経験から示される「ブランド力を数値化する」指標、指標と売り上げの関係、分析方法、数値向上の方法は全て明快で説得力があり、すぐに実践で取り入れられるものばかり。戦略設計や効果検証に携わる人は必読の書です。

・推薦図書27:片山義丈『実務家ブランド論』(宣伝会議)

 Apple、NIKE、スターバックスなどを引き合いに出したブランド本を「教科書ブランド論」とし、「多くの日本企業は、そんなものは真似(まね)できない。学ぶだけ無駄」と喝破する一冊。ダイキン工業 総務部 広告宣伝グループ長である著者による「現場のリアル」と「じゃあどうするか?」がまとめられた実務家ブランド論です。

・推薦図書28:アル・ライズ、ローラ・ライズ『ブランドは広告でつくれない: 広告vs PR』(翔泳社)

 「興味喚起や好意・信頼向上はPRにしかできない」持論をベースに、ブランドは広告にはつくれない(=PRでしかつくれない)と提唱しています。著者がPRパーソンなため、多少PR礼賛しすぎ(広告を落としすぎ)な感は否めませんが、「確かにそういう見方もある」論拠は少なくないため、大局的な思考を身につけるためにも一読をおすすめします。

・推薦図書29:阿久津聡、石田茂『ブランド戦略シナリオ: コンテクスト・ブランディング』

 ブランドは文脈(コンテクスト)によって形成されているという視点でまとめられた本。電通の石田氏と一橋大学大学院経営管理研究科教授の阿久津氏がコラボした、実践×アカデミアが融合した良著。本書で紹介されているアセロラドリンクのブランドコンテクストマップは秀逸すぎて感動をおぼえます。

・推薦図書30:バイロン・シャープ『ブランディングの科学』(朝日新聞出版)

 「従来のセオリー(99%のマーケターが信じる理論や経験則)は、そのほとんどが間違っている」という論をベースに解説。

 商品ごとのユーザー属性はどのブランドもほとんど変わらないためターゲティングし過ぎるのはダメ、ターゲティングしすぎると効率は良くなるが対象が狭くなりすぎるため獲得単価が上がる、ほとんどのブランドの売り上げはロイヤルカスタマーではなく、未顧客やライトユーザーによって支えられているためロイヤルティマーケティングの効果は限定的、など批判的な視点を提供してくれます。

 従来のセオリーとどちらも学んだ上で、自身の考えをまとめていく上で多くのヒントが得られるはずです。

・推薦図書31:ダン・アリエリー『予想どおりに不合理』(早川書房)

 「人間は必ずしも経済合理性に沿った行動をするわけではない。ときに非合理的な判断や行動をとる」という行動経済学を解説する一冊です。「そうそう! あるある!」と消費者の購買行動をおもしろく理解できます。行動経済学を学び始めるために最適です。

・推薦図書32:情報文化研究所、米田紘康、竹村祐亮、石井慶子『情報を正しく選択するための認知バイアス事典』

 「行動経済学」「統計学」「情報学」の3つの研究分野から合計60の認知バイアスを解説する一冊。人間には「脳のバグ」と言われる認知バイアスがあります。ダイエットをしているのにジャンクフードを食べてしまう、金欠なのに高額な買い物をしてしまう、Aの方が得なのにBを選んでしまう──これらは全て認知バイアスです。

 人の意識や態度を変えることで行動を変えるマーケティングにおいて、人間の抗うことのできない認知バイアスを学んでおくことはとても大切。危険なので悪用しちゃ駄目ですよ。

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