ハイブリッドが当面の“現実解”である理由 勝者はトヨタだけではない高根英幸 「クルマのミライ」(5/5 ページ)

» 2024年03月12日 07時00分 公開
[高根英幸ITmedia]
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シリーズハイブリッドの今後の課題

 前述のようにホンダのe:HEVや三菱のPHEVのほか、日産のe-POWER、マツダのロータリーEVと、シリーズハイブリッドはトヨタ以外のメーカーで続々と登場している。ではなぜ、車種が限定されて普及がなかなか進まないのか。一つはコストという問題がある。

 さらに燃費についてもまだまだ期待されているレベルには達していない。今以上に効率を高めるには、回生ブレーキをさらに有効活用するのが効果的ではないだろうか。

 問題は回生ブレーキの回収率が低いことだろう。回生ブレーキは駆動用のモーターを発電機として利用することで、バッテリーに運動エネルギーを電力として蓄えることができるが、実際には発電した電力のうち、蓄えられるのは一部に過ぎない。

EVやハイブリッド車には、回生ブレーキを強めるBモードが設定されているが、回生によって発生した電力も一部しか充電されないのが現状だ。写真はトヨタ・プリウスの内装

 これはバッテリーを利用している以上、避けられない課題だ。バッテリーは受け入れた電力を電極から電解液を通じて負極の電極にイオンとしてため込むが、急速充電以上に充電スピードが求められる回生ブレーキは、それほどエネルギーとして回収できない。

 それを解決する手段は、キャパシタ(蓄電器)にある。電子をそのまま蓄えるキャパシタは、素早く充放電できるだけでなく、ロスも少ないため回生エネルギーを無駄なく利用できる。バッテリーとキャパシタ、それに発電機であるエンジンとモーターを組み合わせることで発電と蓄電、回生をより有効に利用できるはずだ。

 EVはバッテリーの容量が大きいため回生ブレーキにそれほど頼らなくてもいいが、ハイブリッド車は回生ブレーキの回収率を高めれば、まだまだ燃費は伸びる。そう考えれば、シリーズハイブリッドがクルマの主役になっていく道筋が自然と見えてくるのだ。

 今後は欧米のメーカーも本格的にシリーズハイブリッドを開発することになると思う。トヨタのTHSは特許が公開されているが、その制御は複雑であり、しかも欧州メーカーのプライドからトヨタが開発したハイブリッドをまねることはできないと考えられるからだ。

 トヨタはTHSを幅広い車種で展開し、開発コストを吸収した。他のメーカーが今から一気に同じことをするのは難しい。よってシリーズハイブリッドが現実解となるのである。

筆者プロフィール:高根英幸

 芝浦工業大学機械工学部卒。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。これまで自動車雑誌数誌でメインライターを務め、テスターとして公道やサーキットでの試乗、レース参戦を経験。現在は日経Automotive、モーターファンイラストレーテッド、クラシックミニマガジンなど自動車雑誌のほか、Web媒体ではベストカーWeb、日経X TECH、ITmedia ビジネスオンライン、ビジネス+IT、MONOist、Responseなどに寄稿中。著書に「エコカー技術の最前線」(SBクリエイティブ社刊)、「メカニズム基礎講座パワートレーン編」(日経BP社刊)などがある。近著は「きちんと知りたい! 電気自動車用パワーユニットの必須知識」(日刊工業新聞社刊)、「ロードバイクの素材と構造の進化」(グランプリ出版刊)。


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