一方で、鉄道が廃止されてしまうケースの特徴は簡単。存続したケースの逆パターン「復旧費用の地元負担を拒否」「再開業後の資金負担・支援を拒否」の2点だ。
2024年3月に正式に廃止となった根室本線・富良野駅〜新得駅間(豪雨災害で被災)の復旧費用は10.5億円と、他のケースよりやや少なめで済む見込みだった。
しかし、もとよりこの区間は運休前から「1日の乗客152人、年間9.7億円の赤字(2015年)」「運行費用とは別に、今後20年間で22億円の設備改修費用が必要」といった経営環境が課題でもあり、JR北海道からは「当社単独では維持することが困難な線区(輸送密度(平均の乗客数)200人未満)」の指定を受けていた。同様の枠組みで指定された日高本線・札沼線・留萌本線はその後数年で廃止・区間短縮などの措置がとられており、根室本線は被災がなくとも、遅かれ早かれ廃止への協議に入っていただろう。
JR北海道が維持の条件として「年間10.9億円の地元負担」を持ち掛けると、地元自治体は「そこまでは出せない!」とばかりに、鉄道廃止に同意した。もう少し早く協議が決着しそうな気配ではあったが、沿線の町長が逮捕されたことから協議が滞り、災害による運休から8年間のブランクを経て、正式な廃止を迎えた。
また福岡県・大分県を走る「日田彦山線」は、2017年の豪雨災害後に添田駅〜夜明駅間が全面運休。復旧費用は約56億円と見られていたが、地元自治体はこの支払いと、年間1.7億円の赤字負担など、費用がかかる対策を強固に拒否しつづけた。
かつ、復旧後の利用促進策を求めても、「JR九州の効果試算が381万円、自治体の効果試算が2520万円」と極端な開きが出るなど、現状認識の隔たりがあまりにも深く、甘かった。
その後も「復旧費用はJR九州が出すべきで、赤字は利用促進策(ただし見込みが甘い)で何とかなる」の一点張り。ここで自治体の心象を悪くする反論を行えないのが、サービス業である鉄道会社(JR九州)のつらいところだ。
ついにJR九州は「自治体の意向に添えず申し訳ない」とのメッセージとともに、総事業費26億円をかけた「BRT案(バス専用道や既存のトンネル改修・活用)」の検討を沿線市町村に即し、ようやく「鉄道廃止・BRT(現在の「ひこぼしライン」)転換」で自治体からの合意を得た。いわば、BRTとJR九州の「粘り負け」を手土産に、鉄道廃止を了承したようなものだ。
鉄道廃止、BRTで復旧というこの手法は、東日本大震災からの鉄道復旧が困難であった大船渡線・気仙沼線(岩手県・宮城県)でも用いられた。
東北の場合は震災というやむを得ない事情だったこともあり、駅の移転や大幅なルート変更、利便性の向上が行われたが、日田彦山線の場合は、不便な山の上にあった大行司駅をそのまま山の中に残すなど、「なぜわざわざBRTにしたの?」と聞きたくなるような構造がとられた。
2023年10月のBRT開業から1年もたっていないため営業成績は出ていないが、地元からの需要獲得には苦心しているようだ。「鉄道→BRT」という転換スキームの妥当性を、強固に「鉄道に近い形態」にこだわった地元自治体の責任が、問われる時が来るかもしれない。
ローカル鉄道の存続・廃止例を見ると、しっかりと費用負担をして、再開業後の堅実な経営プランを提示すれば、国の支援を獲得して鉄道として存続できる傾向にある。たとえそれがシンボルとしての鉄道存続であるにせよ、それが地域の創意であり、金銭面でしっかり負担を行った上での決断であれば、他地域の人々がとやかく言うことではない。
ただし存続を求める場合でも、必要な費用も出さず「誰かが助けてくれる!」とばかりに出資や支援を拒否していては、助かる鉄道も助からない。
ローカル鉄道が存続する最低の条件は「自分たちの責任で、汗をかいてお金を出して鉄道を維持する」という意思があるかどうかにかかっているのだろう。ただしその場合は、その鉄道が本当に必要か、といった徹底的な議論は避けられない。
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