上出氏は2023年から米ニューヨークに拠点を移し、ディレクター、プロデューサー、作家として活動している。日本の映像メディアが今後も成長するためには、世界に出て行くしかないと考えつつも、それができていない現実に強い危機感を感じていると話す。
「日本のメディア企業はもうかっていないですし、人口もさらに減少しますから、企業として成長したいのであれば、どう考えても海外を目指す必要がありますよね。世界で通用するコンテンツを作るにはお金が必要です。身を切ることも含めて多くのリスクを抱えなければできません。だけど、そこまでの覚悟を持って海外で戦おうと考える日本企業や日本人はいないのが現状です。それ以前に、映像を制作できて英語も話せる日本人があまりに少ないことも、日本のメディアが海外で戦えていない理由の一つだと思います」
いま上出氏は米国で新たな挑戦を続けている。
「僕自身も、もっと早く米国に出てくるべきだったと感じました。どこかの国の企業に買収されるような未来が来る前に、まだ少しでも余裕があるのであれば、企業も個人も今こそ挑戦すべきではないでしょうか」
上出氏が手掛けた「ハイパーハードボイルドグルメリポート」シリーズは、グルメバラエティ番組の体裁をとりながら、アフリカの小国リベリア共和国の墓場に暮らす元少年兵などを追ったドキュメンタリー番組だった。『ありえない仕事術』も同じように、間口を広くして出口で違うものを見せる手法をとっている。これは上出氏が今後も続けていく制作スタイルだ。
「僕は予想を裏切ることに並々ならぬ欲望があります。期待には応えて、予想を裏切ること。これがものづくりのモチベーションです。僕自身、見たことのない世界を見たいのですが、そのために自分から一歩を踏み出すのは、疲れるのでしたくありません。だから、不意打ちされたい。その不意打ちをしている感覚ですね。今後もとにかく旅をして、いろいろなものを見て、聞いて、感じて、それをポッドキャストでもいいし、ノンフィクションやフィクションの本でもいいので、アイデアをどんどん形にしていきたい。いろいろな人の世界を広げて、面白がることができたらいいですね」
田中圭太郎(たなか けいたろう)
1973年生まれ。早稲田大学第一文学部東洋哲学専修卒。大分放送を経て2016年4月からフリーランス。雑誌・webで大学問題、教育、環境、労働、経済、メディア、パラリンピック、大相撲など幅広いテーマで執筆。著書に『パラリンピックと日本 知られざる60年史』(集英社)、『ルポ 大学崩壊』(ちくま新書・筑摩書房)。HPはhttp://tanakakeitaro.link/
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