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異動・配属を「手挙げ」中心に移行すべき、これだけの理由(4/4 ページ)

» 2024年05月29日 08時30分 公開
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人事部は随時異動への対応を強化

 今後も期首には組織制改廃などに伴う大規模な異動が行われるはずだが、事業戦略と人事戦略の連動性が高まり、各部門主導の色合いが濃くなるにつれ、随時異動もさらに増えていくだろう。今でも人事部からは「異動はせめて月1回にしてほしい」というような声が聞かれるほど、随時異動が頻繁にある企業も珍しくはないようだ。人事部からすると人事異動はもう少し計画的・効率的に、各部門からすると必要であればなるべく早く実施したい、ということだろう。

 随時異動は期首計画外のニーズに対応するもので「場当たり的」だとみる向きもあろうが、必ずしも随時異動が多いから場当たり的だともいえない。例えば、11月に異動ニーズが発生して12月に随時異動を実施すれば場当たり的に見え、翌年4月の定期異動まで待てば計画的に見える。12月の異動が必須ならばどの企業も随時異動を行うだろうが、そこまで緊急度・重要度が高くない場合に随時異動を行うか、次の定期異動まで待つかは経営スタイルの違いに過ぎない。今後、事業環境の変化への対応スピードを上げようとする企業が増えていくと、随時異動も増えるはずだ。人事部は、随時異動に積極的に対応していく必要がある。

図5:定期異動と随時移動(出所:筆者作成)

 随時異動の難点は、計画的な育成ローテーションに対応しづらいところだ。そもそも随時異動はいつあるか分からないので、「計画的育成」とは相性がよくない。随時異動にいかに育成要素を織り込むかが人事異動案策定者の腕の見せ所だが、そもそも随時異動はほとんどがポジション起点なので職務要件に合致する人しか異動候補者になりえない。

 そこで、定期異動の活用だ。定期異動は組織制改廃などに伴って同時に多くのポジションニーズが発生し大勢が異動するので、人とポジションの組み合わせ、人事案策定の選択肢が広い。実施時期が読めない随時異動と違い、定期異動はキャリア開発計画の策定・実施にも使い勝手が良く、自律的キャリア支援に向く。 人事部は、各部門ニーズに基づく随時異動に積極的に対応するとともに、適材適所アプローチで定期異動に計画的育成要素を織り込むことが重要だ。

まとめ

 事業ニーズに対応する各部門主導の人事異動、ポジション起点の適所適材配置、随時異動の増加は時代の流れである。人事部は事業ニーズに沿った異動配置のサポートを積極的に行う必要がある。

 また、雇用長期化が要請される中、同時にキャリア自律を支援する施策が欠かせない。手挙げ異動の機会を大幅に増やしていく必要がある。一般的ポジションを含め、人事異動は社内公募を基本にすべきだ。そのうえで、人事部はポジション起点の随時異動と手挙げ異動の盲点をカバーしなくてはならない。ポジション起点は職務要件にかなう人材にしかスポットライトが当たらず、手挙げ異動は「手を挙げない人」は対象にならない。

 人事部は、「次世代経営人材のタレントマネジメント」と人材起点、適材適所の観点から「手を挙げないミドルパフォーマー」の人事異動・配置を主導すべきだ。同一部署長期在籍のミドルパフォーマーは定期的に適材適所異動候補リストに載せてシミュレーションしてほしい。必ずしも実際に異動させる必要はないが、本人とキャリア形成に関するコミュニケーションをとることが重要だ。それらの異動配置は、人事案の選択肢が広い定期異動を活用すべきだ。

著者プロフィール:藤井薫

電機メーカーの人事部・経営企画部を経て、総合コンサルティングファームにて20年にわたり人事制度改革を中心としたコンサルティングに従事。その後、タレントマネジメントシステム開発ベンダーに転じ、取締役としてタレントマネジメントシステム事業を統括するとともに傘下のコンサルティング会社の代表を務める。人事専門誌などへの寄稿も多数。

2017年8月パーソル総合研究所に入社、タレントマネジメント事業本部を経て2020年4月より現職。

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