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異動・配属を「手挙げ」中心に移行すべき、これだけの理由(1/4 ページ)

» 2024年05月29日 08時30分 公開

この記事は、パーソル総合研究所が2024年4月2日に掲載した「「ジョブ型」や「キャリア自律」で異動配置はどう変わるのか」に、編集を加えて転載したものです(無断転載禁止)。


 ジョブ型人事制度やキャリア自律への関心が高まる中、人事異動・配置はどのように変わっていくのだろうか。今後は社内公募などの「手挙げ」異動を増やしていけばよいのではという企業の声が聞かれるが、それだけでは十分ではない。

 近年、パーソル総合研究所では異動配置に関する3つの調査(※1〜3)とジョブ型導入企業に対するヒアリング調査(※4)を実施している。本コラムでは、それらの調査結果をもとに考察したジョブ型人事制度やキャリア自律に対応する人事異動・配置の見直しの方向性を紹介する。

※1:パーソル総合研究所「非管理職層の異動配置に関する実態調査(2021)
※2:パーソル総合研究所「管理職の異動配置に関する実態調査(2022)
※3:パーソル総合研究所「一般社員層(非管理職層)における異動配置に関する定量調査
※4:パーソル総合研究所「職務給に関するヒアリング調査

人事異動・配置の見直しの3つの視点

 ジョブ型人事制度やキャリア自律に対応する人事異動・配置の在り方を検討する場合、少なくとも3つの軸を念頭に置く必要がある。人事異動・配置施策は「人材起点かポジション起点か」「社命異動か手挙げ異動か」「定期異動か随時異動か」の3つの軸によって、大まかに特徴づけられる。

(1)人材起点かポジション起点か

 人材起点の異動は「適材適所」の異動と言い換えることができる。同じく、ポジション起点の異動は「適所適材」の異動だ。「適材適所」と「適所適材」は単なる言葉の遊びではなく、異動配置手法としてまったく異なるものだ。「適材適所」は異動先を想定する前に異動候補者リストを作るアプローチであり、「適所適材」は空きポストに対して異動候補者リストを作るアプローチである。人材起点(適材適所)の異動は人事部主導で行われるケースが多く、各部門主導の異動はポジション起点(適所適材)のものが大半だ。

(2)社命異動か手挙げ異動か

 「社命異動」は異動対象者と異動先を会社が決める。「手挙げ異動」は社内公募制度やフリーエージェント制度などで、従業員本人の意思を異動の契機としたり、異動先を本人が選択したりするものをいう。自己申告制度による異動も「手挙げ異動」の一種と見てよいだろう。

(3)定期異動か随時異動か

 「定期異動」は4月と10月など毎年決まった時期に行われるもの、「随時異動」は必要に応じて適宜行われるものをいう。各部門の人事権が強い場合は、随時異動が増える傾向がある。

人事異動・配置の現状

 人事異動・配置施策の3つの軸を見ると、現状は[図1]の左端に近いほうにあり、ジョブ型やキャリア自律が広がるにつれて、だんだんと右側にシフトしていくと考える人が多いのではないだろうか。

図1:人事異動・配置の見直しの3つの視点と日本企業の現在地(出所:筆者作成)

 しかし、定量調査(※3)から人事異動・配置の実態を見ると、「(1)人材起点かポジション起点か」については、「異動者の大半について、ポジションを想定する前にリストを作成する」人材起点の異動を中心とする企業が49.8%、「異動者の大半についてポジションが決まってからリストを作成するポジション起点中心の企業が41.0%とほぼ半々だ。

 「(2)社命異動か手挙げ異動か」は、社内公募制度がある企業は55.7%だが、「活用されている」企業は33.1%にとどまっている。フリーエージェント制度、キャリア自己申告制度も含めた「手挙げ」による異動の割合は、平均で異動全体の1.1割だった。

 そして、「(3)定期異動か随時異動か」は、定期異動がある企業は70.1%で、定期異動がある企業では1年間の異動のうち平均2.5割が定期異動によって行われている。裏返すと、定期異動がある企業でも7.5割は随時異動で異動している。

 このように、人事異動・配置の現状は[図1]に青色のバーで示したあたりに位置し、さほど左側寄りというわけではない。今後は、さらにポジション起点の異動や手挙げ異動、随時異動が増えると予想されるが、日本の雇用慣行下においては、単に右方向へのシフトを推進するだけでは課題が残る。

 そこで、人事異動・配置の見直しの3つの視点のそれぞれについて、留意すべきポイントを以下に述べる。

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