ブルシット・ジョブ(クソどうでもいい仕事)とは文化人類学者のデヴィッド・グレーバー氏が提唱したもので、「完璧に無意味で、不必要で、有害でさえあるムダな仕事」を指す。今回の自動車メーカー擁護論を信じれば、認証制度は典型的なブルシット・ジョブである。
型式指定とは、このクルマがちゃんと安全に走行できることや、環境負荷を軽減できていることの「お墨付き」だと国は胸を張るが、自動車メーカー各社はそれ以前に、はるかに厳しい基準の試験を独自で実施している。
では、なんでそんな二度手間をするのかというと「大量生産」の資格を得るためだ。国の保安基準を満たしたモデルは出荷前に車検に相当する「完成検査」をパスしたと見なされ、一台一台チェックを受けなくていい。つまり、事務手続きにすぎない。
だから多くの自動車ジャーナリストやメーカー側が主張しているように、「不正だけど安全性にはなんの影響もない」ことになる。守らなくても問題のない制度など、無意味で不必要だ。
そのくせ、国が定めた基準を厳密にクリアしないといけないので、手間と時間がやたらかかってしまう。エンドユーザーのため、安全なクルマをスピーディーに大量生産しているメーカーからすれば、「有害でさえあるムダな仕事」と言っていい。だから、「こんなもん適当に数字を合わせりゃいいだろ」というモラルハザードが起きて、不正がまん延するのだ。
そう聞くと、「日本の自動車メーカーの競争力向上のため、そんな意味のない制度はさっさとやめちまえ」と思うだろうが、そういう善悪論だけで語れないのがブルシット・ジョブの悩ましいところなのだ。
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