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初期投資に数百万円……元外資系マーケターがD2C起業で分かった“落とし穴”日本のマーケティング最前線(1/2 ページ)

» 2024年08月08日 09時00分 公開
[小林幸平ITmedia]

日本のマーケティング最前線

“マーケティングで成功した会社”といえば、みなさんはどの会社を思い浮かべるだろうか? アップル、コカ・コーラ、P&G、ロレアルなど、よく外資系企業が名前を挙げられる。

しかし、実は日本にもマーケティングで大きな成長を遂げた会社がたくさん存在する。

本連載では、マーケティングで成功をあげるための本質的な考え方・思考法を、外資マーケティングの最前線で戦ってきた小林幸平氏が、独自のマーケティングフレームで解説する。

筆者プロフィール:小林幸平

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京都大学大学院医学研究科卒業後、 日本ロレアル株式会社に入社。新規ヘアケア製品ノーシャンプーのプロダクトマネジャーとして新製品の開発および販売戦略立案を担当し、同製品は楽天市場総合ランキング1位を獲得。その後デジタル・イーコマースにおけるマーケティング責任者として事業拡大戦略の立案と推進に取り組んだのち、2019年8月よりメイベリンニューヨークのアジアヘッドクォーターにてリージョナルマーケティングマネジャーとしてビジネス統轄を担う。その後、2021年2月よりノバセル株式会社の執行役員として同社事業を牽引。

合同会社スモールミディアムCEOとして、D2Cブランドの経営も行う。

公式noteはコチラから。


 この10年、小売店などの中間業者を挟まず、SNSや自社ECを通じて製品を顧客に販売するビジネスモデル(Direct To Consumer、略してD2C)が活性化し、多数のブランドが乱立した。

 これまで2回に渡って、このD2Cのビジネスモデルが、薬事法やステマ規制、そして解約率向上などを背景に市場が厳しくなり、冬の時代を迎えていることをお伝えした。

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 実際のD2Cビジネスのリアルを伝える記事は少ない。マーケティングは理論よりもやはり実践の中で学ぶことが多い。私自身、マーケティングのキャリアの中で一番重要視しているのが、現場感であり、リアリティーだ。

 筆者はこのD2Cビジネスを学ぶため、自費で1年前にD2Cブランドを立ち上げ、身を削りながらその難しさを体感してきた。

 このシリーズでは数回に分けて、なかなか普段のぞくことのできない、D2C事業のリアルな裏側を余すことなく、読者のみなさまにお届けする。第1回の今回は、ブランドを立ち上げてみて分かったD2Cのメリットとデメリットを、実際の投資コストを公開しながら紹介。D2C立ち上げ初期は、注意すべき“落とし穴”がある。

実際にやってみないと気付けない、D2C事業のメリット

 そもそもなぜ筆者がD2Cを始めたのかというと、新卒で入社したフランス系外資メーカー・日本ロレアルに入社したことにさかのぼる。ロレアルで初めて担当した製品が、欧州のトレンドである“洗わないシャンプー”「NO SHAMPOO」だった。3年間この製品を担当し、わが子のように愛していたが、私が海外へ赴任となったタイミングで惜しくも廃盤となってしまった。

 それが今でも諦めきれず、これだけ素晴らしい文化を日本で絶対に広めたいという思いから再度チャレンジすることを決意した。

 この話はチュートリアルの徳井さんともYouTubeで対談しているのでぜひ見て頂きたい。

 マーケティングに取り組む際の私の信条は、“とにかくやってみること”である。

 どんな知識も使えなければ意味がなく、マーケティングという仕事は突き詰めると結果を出すことが全てである。だからこそ、まだトライしたことのないD2Cという市場で、自らの資産を注ぎ込んでハイリスクを取りながら、血肉となる学びを得る挑戦を選んだ。

 私が運営するブランドでは、NO SHAMPOOという、シャンプー+コンディショナー+トリートメント機能を一本にした製品をオンライン(楽天・Amazon・自社サイト・@cosme)で販売している。通常価格は3980円だが、セール時期などに合わせて随時ディスカウントを入れ、価格弾力性を持たせている。

 実際にやってみて気付いたD2C事業のメリットは2つ。1つ目は、OEM企業を活用し、誰でも簡単にオリジナル製品の生産ができることだ。

 実は日本には多くのOEM企業(他社ブランドの製品を製造する企業)が存在する。例えば今回のように美容製品をオリジナルで作りたい場合、OEM企業にパッケージやデザイン、仕上がりイメージを伝えればかなり精度高く生産してくれる。

 昨今のトレンドとして、少ない生産個数からでも発注を受けてくれるOEM企業が増えてきた。そのため、まずは1000個からといった形でなるべく初期費用を抑えた形で開始できる。

 YouTuberのオリジナルブランドなども増えているが、こういったインフラの進化がその背景にある。

 2つ目は、D2Cの仕組みを作ることは案外簡単なことがある。「D2C事業を自分でやるのは大変そう」「本業との兼ね合いもあるし……」と思う人も多いだろう。実際には、作業自体はかなり簡単に仕組み化できる。

 Amazonや楽天といったプラットフォームを活用すれば、製品の受注をオートでできるし、自社サイトで販売する際も、BASEやShopifyといったECカートシステムが多く存在する。

 在庫の管理も、これらのプラットフォームと連携された倉庫を活用すれば、自動で発注を受け、そのまま倉庫から顧客のもとに発送という流れになり、実は運営側は特にすることはない。

 もちろん独自で広告を回すと工数はかかる。しかし立ち上がったばかりのブランドで大きい広告投資をするのは稀(まれ)なので、副業としても負担なく運営できるのがD2Cの魅力の1つだ。

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