「リバースメンター(リバースメンタリング)」と呼ばれる制度の導入が各社で広がっている。メンターと呼ばれる先輩社員が、後輩や新入社員に対話しつつ助言するのが「メンター制度」だが、それとは反対に若手社員が上級管理職や役員のメンターとなり、新しい知識や視点を共有するというものだ。
大手企業では資生堂が2017年、住友化学が2020年、みずほフィナンシャルグループが2023年に導入。2024年にはNECも、新入社員が役員の講師役となり、DXに関する助言を行う研修を実施した。
2020年からリバースメンター制度を導入した三菱マテリアルでは、参加者を募集する際の“とある工夫”が、制度を浸透させる上で大きな効果をもたらしたという。取り組みの概要や狙いについて、人事労政室とコーポレートコミュニケーション室の担当者に話を聞いた。
三菱マテリアルは、三菱グループの非鉄金属メーカー。「金属事業カンパニー」「高機能製品カンパニー」「加工事業カンパニー」の3部門で多岐にわたる事業を展開しており、本社を含め24の事業所を国内に構えるほか、32の国と地域に事業拠点を持つ。従業員数は連結で1万8323人、単体で5408人を数える(2024年3月末現在)。
同社がリバースメンター制度を試験導入したのは2020年のこと。2021年に正式にスタートした。30代までの社員2〜4人が役員1人のメンターを担当し、幅広いテーマについてオンライン、または対面で定期的に意見交換する。メンティー(メンターから助言を受ける人)となる役員層は参加必須で、メンターは応募制だ。これまでに延べ150人以上の社員がメンターを経験しており、2024年度は33人がメンターとして参加。応募者は基本的に全員がメンターに任命されているという。
担当する人事労政室 ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン(DE&I)推進グループの長谷川卓弥氏は、「当初はDXについての知見を、役員が若手から取り入れる目的で開始しましたが、現在は自由闊達(かったつ)なコミュニケーションとDE&Iの推進を主な目的に掲げて実施しています」と話す。メンタリング(対話)において話すテーマも、現在は「若手が望む働き方」「女性が働きやすい職場」「SNSでの情報発信」「男性育休について」など多岐にわたる。
さらに、部門間コミュニケーションの促進も大きな目的だという。
「メンター1人に対して、メンティーとは異なるカンパニー部門の若手が複数名で面談する形式です。メンター同士もなるべく部門が被らないようにしており、斜めや横の社内コミュニケーションを活発化させる狙いもあります」(長谷川氏)
しかし、当初はメンター志望者の少なさが課題だった。コーポレートコミュニケーション室 室長の久保田千秋氏は「当初は従業員も制度の存在は知っていても、誰が参加しているのか、どんな会話をしているのかが分からない状況でした」という。コーポレートコミュニケーション室 広報グループの大里ひとみ氏は「実施期間や頻度も一律だったので、業務の都合で応募できない社員もいたのではないか。若手社員と役員の組み合わせも事務局がブラックボックスで決めていたので、メンターとしても不安があったのでは」と話す。
そこで同社は、2023年度から開催形式を変更した。元々は単なる「メンターの募集」にとどまっていたが、役員側が話したい内容やメンタリングの頻度についての希望、自らの人となりといったアピールポイントをまとめた「アピールシート」を公開。メンター側が応募時に話してみたい役員を第1〜第3希望まで選ぶ形式とした。実施形式の自由度も高め、それまでは事務局が「月に1回」のように一律で指定していた期間や頻度なども、「最低3回は行うこと」という条件は設けつつ、当事者らが柔軟に決められるようにした。
この施策の導入後、2022年度には22人だった応募者数は、2023年度には43人へと2倍以上に増加。アピールシートには家族構成や好きな食べ物など、役員の人となりが分かるような内容も織り込まれており、大里氏は「応募する側のハードルが下がったのでは」と見る。
「開始当初は前職でリバースメンター制度を経験した人の意見や、他社の事例を参考にしたりしましたが、実際に進めていく中で、独自の要素をどんどん取り入れていきました。だんだんとオリジナリティーが増している感じです」(久保田氏)
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