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残業時間は半減、社員一人当たりの売上は15%増――「働きがい重視の改革」が結果につながる理由働き方改革を阻む「抵抗」「不安」「失敗」との戦い方(1/4 ページ)

» 2019年12月26日 08時00分 公開
[後藤祥子ITmedia]

 働き方改革は、ITの急速な進化に伴う「ビジネスモデルの変化」に対応するための取り組みであり、「これまでの常識を疑い、企業としてのビジョンを問い直し、組織の在り方を見直す」という「痛みを伴う取り組み」なしには成立しない――。

 そんな苦難の道にあえて挑戦し、長い年月を費やして新しい働き方にシフトしたのが、静岡県浜松市でリージョナルHR事業を営むNOKIOO(ノキオ)だ。

 同社の働き方改革の過程を追うインタビューの後編では、働き方改革の専門家として知られる沢渡あまね氏が同社代表取締役の小川健三氏に、地方都市の企業こそ働き方改革に取り組むべき理由と、その方法について聞いた。

Photo 働き方改革の専門家として知られる沢渡あまね氏(画面=左)と、NOKIOOの代表取締役を務める小川健三氏(画面=右)

誰でも「NOKIOOの中の人」とランチできる機会を作った理由

沢渡: NOKIOOさんは、外の人とのつながりを広げるために、ちょっと変わった取り組みをしていますよね。

小川: 2年前にスタートした「NOKIOO Lunch Session」のことですね。もともとは採用を目的に始めたもので、社外の人が「話してみたい」と思うNOKIOOの社員を指名すると、一緒にランチできる仕組みを作ったんです。

Photo NOKIOO Lunch Sessionのサイト。対応メンバーの中から話したい人を選んでランチを申し込める

 ランチ当日にはまず、指名されたNOKIOOの社員が社内を案内するとともに、当社がどんな会社なのかを紹介します。その後、外に行ってランチをご一緒しながら、いろいろな話をするんです。もちろん、ランチ代は当社が負担します。

 申し込みの動機は、「NOKIOOの求人に応募したい」「ビジネス上の相談をしたい」「もやもやしていることを聞いてもらいたい」など、さまざまですね。スタートから2年間で60人がランチに申し込み、その後、Lunch Sessionを通じて16件の採用エントリーがありました。その結果、8人の採用につながっています。

 この取り組みは、ビジネス上のつながりを作るのにも役立っていますね。当社のスタッフと仕事をした人が、「仕事中には聞けなかったことをあらためていろいろと聞いてみたい」とLunch Sessionに申し込んできたことがあるんです。ネット広告のトレンドや、当社の働き方のことなどをいろいろと話すうちに絆が深まって、今では何かあったときには相談してくれる間柄になっています。

沢渡: Lunch Sessionを通じて、互いの目指すところや仕事に対する思いを共有できた――ということですね。自社とつながる相手を“上から目線”で選ぶ「相見積もりやコンペをさせて選んでやる」ようなスタイルからは決して生まれない、信頼に基づく関係性を築くことができるのはいいですよね。

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小川: 加えて、社員の成長にもつながったのが驚きでした。ランチに指名された社員は、会社について聞かれたら、自分の言葉でそれを説明しなければならないですよね。でも、社員が自社のことについて説明する機会なんて、実はそんなにありません。Lunch Sessionがそれを言語化するいい機会になったんです。

 「ノキオスタイルとはどんな働き方なのか」「なぜそのような働き方をするようになったのか」「うまくいかないことはあるのか」「どう運用しているのか」――といった外部からの質問に対して、自分なりにどう考え、自分の行動の中に落とし込んでいるのかをアウトプットする機会があれば、より自社の取り組みについての理解が深まります。

 それと同時に、「ひょっとしたら社長は、こんな思いでノキオスタイルを推進しているのか」「この間、言っていたのは、こんなことだったのか」といったような、経営陣に対する理解にもつながると思うんです。それが、経営陣と社員のエンゲージメントを深めていくための、1つの手法になっているような気がしています。

沢渡: 「社外との接点をつくる」のは大事ですよね。大企業の社員でも、海外に駐在したり出張したりすることが多い人は、「自分たちが何ものであるか」を説明する必要に迫られるので、自社の取り組みに対する理解が深まります。

 私は、これからの企業は、社員ひとり一人が広報の役割を果たす必要があると思っているんです。自分の会社のミッションは何なのか、そのミッションの中で自分がどんな役割を担っているのかが説明できないと、「妖怪顔なし」(自分の役割や仕事について深く考えることをせず、やらされ仕事をこなしている状態)になってしまうと思うんです。そんな人ばかりがいる会社ではコラボレーションなど起こらないし、社員の市場価値もどんどん下がってしまいます。

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