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働き方改革の失敗にはパターンがある 試行錯誤の末に見えてきた「変革に欠かせない」5つのポイント働き方改革を阻む「抵抗」「不安」「失敗」との戦い方(1/4 ページ)

» 2019年12月25日 08時00分 公開
[後藤祥子ITmedia]

 働き方改革は、ITの急速な進化に伴う「ビジネスモデルの変化」に対応するための取り組みであり、「これまでの常識を疑い、企業としてのビジョンを問い直し、組織の在り方を見直す」という「痛みを伴う取り組み」なしには成立しない――。

 そんな苦難の道にあえて挑戦し、長い年月を費やして新しい働き方にシフトしたのが、静岡県浜松市でリージョナルHR事業を営むNOKIOO(ノキオ)だ。

 同社がたどった働き方改革の過程をCEOの小川健三氏に聞く、本インタビューの中編では、挫折と試行錯誤の末に見えてきた「働き方改革に欠かせない5つのポイント」に迫った。聞き手は働き方改革の専門家として知られる沢渡あまね氏。

Photo 働き方改革の専門家として知られる沢渡あまね氏(画面=右)と、NOKIOOの代表取締役を務める小川健三氏(画面=左)

ノキオスタイルが生まれるまでの葛藤

沢渡: どんな方法で古いマネジメントスタイルから、「ノキオスタイル」という21世紀型のマネジメント手法に変えていったのですか。

Photo NOKIOOが変えた働き方についての考え方

小川: 最初は成功している企業の見よう見まねで、形から入りましたね。なかなかうまくいかなかったのを覚えています。

 2011年にNOKIOOを創業した当時は、会社の信用力もなければキャッシュも乏しかったので、知人のマンションの住所を借りて登記して、7〜8人のスタッフがそれぞれ、自宅やカフェで仕事をしていたんです。

 当時、サイボウズLiveという無料のグループウェアがあったので、「このツールを使えば、オフィスがなくてもメンバー同士が連携しながら仕事ができる」と考えたのですが、実際にやってみるとそんなに簡単ではなかった。

 離れた場所で顔を合わせずに仕事をしていると、次第に見えない相手に対して不安を覚えるようになるんです。ちょっと仕事がうまくいかなかったりすると、「あいつ、返事がないけど仕事してないんじゃないか」とか「この問いかけに答えてくれないのは、都合が悪いからじゃないか」みたいなことを言い出すようになって。だんだん疑心暗鬼になってしまうんですね。

沢渡: 日本のレガシー組織でなかなかリモートワークが定着しない理由の一つは「性悪説のマネジメントに立脚しているから」なんですよね。

Photo

小川: :顔を合わせて仕事をするのと全く同じように、離れて仕事をすることはできないんですよね。例えば、同じ場所にいれば、「このwebページのデザインは、上にこんな感じでバナーがあって全体的な色味はこんな感じで、なんとなくこの間見た、あの雰囲気で……分かるでしょ?」みたいな会話で仕事が進みますが、その場にいない相手には、これでは通じないですよね。

 離れた場所にいる人と仕事の話をするには、成果物を出すのに必要な「インプット」「粒度」「条件」をきちんとそろえて相手に伝える習慣ができていないと、うまくいかないんです。そのあたりは試行錯誤しながら改善しました。ロジカルに物事を伝える能力を身につけていないと、離れた場所でのコミュニケーションは難しい――という気付きがありました。

 加えて、リモートワークに向かない人がいることも分かりましたね。NOKIOOを辞めてしまったメンバーを見ると、「他者からの評価がモチベーションの源泉になっている人」が多かった。「遅くまで大変だね、がんばっているね」と言ってもらうことをモチベーションに変えるタイプの人は、“見えないだけに”難しいかもしれません。人が見ていようがいまいが、「自分のミッションは何で、何をすべきか」を分かって行動できる自立型の人間のほうが、リモートワークは向いている気がします。

 このリモートワークは定着するまでにとても時間が掛かり、解決すべき課題も多かったので、ある幹部が「こんなに組織がうまくまわらないのは、離れて仕事をしているからに違いない。元の顔をつきあわせる働き方に戻そう」と言い出したんです。でも、それは断固、拒否しました。

 働き方を変えていく過程では、本当にいろいろな問題が起こるんです。それこそ半年ごとに、「売上が上がらない」「人が辞めていく」「衝突が増えた」といったような問題が浮上して、そのたびに「これはきっと、ノキオスタイルという働き方に原因があるからだ」という話になる。

 ただ、ノキオスタイルは「未来を見据えた新しい働き方」であり、自分たちの行動と思考を新しい働き方に合わせるようチャレンジしていかなければならないわけです。

 「新しい働き方に変えてみたけれど、うまくいかないから元に戻しました。やっぱり昭和の働き方のほうがよかった」というのは、あまりにも安易な考えじゃないかと、繰り返し議論しましたね。「もやもやすることもあるかもしれないけれど、僕らは新しい働き方に適応しうる未来型の人材になっていくのだから、何が足りないかを必死に考えながら改善していこう」と、ひたすら言い続けました。

Photo NOKIOOのサテライトオフィスには、常時、本社の様子を映す大型ディスプレイを設置している
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