沢渡: もう1つ、働き方改革が進まない会社の傾向として顕著なのが、「昔、作ったルールが全て」という考え方ですね。変化を嫌って「昔からの仕組み」を「今の時代に合った仕組み」に変えられず、“成果が上がっていないにもかかわらず仕事をした気になれる”仕事ごっこを増やしている。すると、優秀な人材は辞めていくし、いいコラボレーション相手にも恵まれないですよね。
小川: 実は、ノキオスタイルの一つの考え方として「やらないこと宣言」をしているんです。「社内資料は印刷しない」「テレアポはしない」といったようなことです。
「このルールは既に意味を成さなくなっている」「このルールは成果に直結していない」というものが「昔からある」という理由だけで残っているのはおかしな話ですよね。
例えば前職で「営業はテレアポが基本だ」といわれてきたのですが、僕としては成果が上がっている実感がないし、何より疲弊するばかりだったんですね。だから思い切って「テレアポを辞めよう」と宣言したんです。
すると面白いことに、「それをやらないなら、代わりに何をやって成果を出すか」というところに頭を使うようになる。すぐには出てこないかも入れないけれども、考えるようになるんです。
もちろん、ちょっと油断すると、ふと「このリストに電話すればいいじゃない」という悪魔のささやきが聞こえてくる(笑)。でも、それを振り払って1週間くらい考え続けると「こんなチラシをやってみたらどうだろう」「みんなの名刺を集めて、『新サービスを作ったので話を聞いてもらえないか』とメールを配信してみたらどうだろう」とか、いろんなアイデアがわいてきたのです。
試しにメールを配信してみたら、かなりの反応があって驚きました。「テレアポをする」という、旧来からのルールに縛られていたら、こんな発想には至らなかったですよね。
それ以来、おかしいと思ったルールは「やらないこと宣言」に載せて、代替案をみんなで考えるようになりました。
沢渡: それはとてもいいやり方ですね。私の著書、「仕事ごっこ」の第8話に「おはなしをきいてもらえない、すずめさん――いまどきテレアポのみで営業をかける人たち」という話があるのですが、「やめることを決められない」のは、世の中の働き方改革がうまくいっていない企業の負けパターンの本質だと思います。
「やめることをしない」のも大きな問題ですが、さらに厄介なのが、「やめるべきなのに残っている仕事」というのは、まさに「仕事してる感」がある――ということですね。
本来ならやめることを決断し、新しい方法やプロセスで実行するべきなのですが、新しいことは覚えるまでには時間がかかるし、やり方も今までとは異なるから、心理的に逃げたくなるんです。だったら、今までのやり方で仕事をしていたほうが気が紛れるし、安心感があるし、評価も下がらない――ということで、やめることができないんです。
変化するためのポイントは2つあって、1つは「やめることを決める」こと。もう1つは「やめたあと、どこで価値を出していくか」を、組織の中できちんと考えることです。そうしないと社員の中に、「この仕事がなくなったら、自分の居場所がなくなるんじゃないか」という不安感と無力感がわいてきてしまいます。
ここでは小さな成功体験を積み重ねることが大切です。NOKIOOさんの例でいえば、「テレアポをやめてメールマーケティングをやってみたら反応がよかった」という小さな変化がスタートですよね。このような成功体験を積んでいくと、人は変化のファンになって、新しいやり方に自らシフトしていくようになります。
このサイクルをいかに回せるかが「すべらない働き方改革」なのだと思います。
【後編に続く】
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