鳥貴族はなぜ生き残れたのか さくら水産と分かれた“居酒屋の十字路”スピン経済の歩き方(1/7 ページ)

» 2025年06月11日 06時00分 公開
[窪田順生ITmedia]

スピン経済の歩き方:

 日本ではあまり馴染みがないが、海外では政治家や企業が自分に有利な情報操作を行うことを「スピンコントロール」と呼ぶ。企業戦略には実はこの「スピン」という視点が欠かすことができない。

 本連載では、私たちが普段何気なく接している経済情報、企業のプロモーション、PRにいったいどのような狙いがあり、緻密な戦略があるのかという「スピン」をひも解いていきたい。

 先日、居酒屋チェーン「海鮮処 さくら水産」(以下、さくら水産)が最盛期から9割以上の店舗を畳んだ、という『東洋経済オンライン』の記事が大きな話題になった。

さくら水産(出典:公式Webサイト、以下同)

 ご存じない方のために説明すると、さくら水産とは「魚肉ソーセージ50円」「ランチ500円でご飯、味噌(みそ)汁食べ放題」など、「庶民の味方」「働く男たちのオアシス」として2000年代に人気を博した居酒屋チェーンだ。最盛期は全国に100店舗ほどあったので、繁華街などで看板を見た記憶のある人も多いだろう。

 しかし、2010年代に入ると失速して業績も低迷。投資ファンドに買収された後、和食レストラン「湯葉と豆腐の店 梅の花」などで知られる外食グループの傘下に入り、「高価格帯シフト」へ乗り出した。しかし、これもうまくいかず、コロナ禍にはSNSで「さくら水産の大量閉店」が大きな話題になったこともある。

2018年のメニュー、安さが目立つ

 2025年6月現在、店舗数はついに11店まで減少した。東洋経済オンラインの記事によると、さくら水産を運営するテラケンは「もう店舗は増やさない」と明言し、他ブランドの店にリニューアルする予定もあるという。つまり、一時代を築いたさくら水産が消えていくのは、もはや時間の問題なのだ。

 なんとも寂しい話ではあるが、一方でこのさくら水産の栄枯盛衰から、ビジネスパーソンは「人口減少が進む日本で絶対に避けるべき施策」を学ぶことができる。それは一言でいうと、「採算度外視の激安商品・サービスで客を獲得する」ということだ。

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