日経平均株価が史上最高値を連日更新している。
8月には合意内容の解釈問題で一部混乱が生じたものの、日米間での新たな関税合意がまとまり、自動車関税が当初の見込みから引き下げられる方針も示された。
「80兆円規模の投資」が条件となった関税合意については、日本にとって損なのか得なのかという点で解釈が分かれるところではあるものの、市場はポジティブに捉えていると見られる。
輸出企業の業績見通し改善が後押しし、日経平均株価指数は4万2000円台で史上最高値を足元で連続更新している。長らく株価の“天井”として意識されてきたバブル時代の最高値3万8000円台をはるか下に望む勢いだ。
株価の上昇、その主要なファクターとなった関税合意は、石破政権の功績であるはずだ。しかし、このような環境であるにもかかわらず、石破政権ないし「イシバノミクス」はイマイチ評価されていない。政権運営が難しい局面にある中、経営者はどのように対応していくべきか考える。
NHKの世論調査によれば、石破内閣の支持率は6月時点で32〜36%台に回復していたが、7月の参院選で与党が大敗すると直後の調査で23%に急落した。時事通信が14日に公表した8月の調査によれば、直近では6.5ポイントの上昇で27%まで支持率が回復しているものの、参院選前の水準をいまだに下回る水準だ。
株価が最高値を連続更新しても、支持率の根本的な回復には直結していない。その理由は何にあるのか。最大の要因は「物価高」であると考えられる。
世界の選挙史を見ると、高インフレ局面では与党が選挙で敗れる傾向が際立つ。米国では1970年代のスタグフレーション時において、共和党政権が物価高への対応で支持を失い、1976年に民主党が政権を奪取した。しかし民主党政権もインフレ沈静化に失敗し、1980年に共和党へ政権を再び明け渡している。
直近では2024年の総選挙で英国でも与党の保守党が歴史的な大敗を喫した。最大の争点は「コスト・オブ・リビング」(高止まりする生活費)で、インフレが英国における有権者の最大関心事として扱われていた。
インフレは政治局面を一新させるほどの力があるわけだ。
また、今回の株高の主因については、石破政権自身の政策というよりも外部環境に重きが置かれている点でイシバノミクスとしての評価につながりにくかった側面もある。
ロイターが8月14日に公表した企業調査によれば、米国との関税合意について、対象企業の76%が「評価する」と答えた一方、42%が「業績に影響なし」と回答している。
石破政権の政策軸は地方創生や防災投資やAI半導体といった中長期テーマに重きが置かれ、即効性のある景気刺激策に乏しい。物価高騰のような現在の生活に直結する分野に対して一般国民へのアピールに乏しかったことも、イシバノミクスがイマイチ一般国民に評価されない理由であると言えるだろう。
参院選以前から、参政党や国民民主党など新興・中堅政党が勢力を伸ばす兆候は表れていた。今後、衆議院選挙が行われるタイミングにおいては、政党の勢力図は一層流動化し、政策決定に複数の党の合意が不可欠となる局面が増えるだろう。
このような「群雄割拠」(≠ねじれ国会)状態では、各党の意見がぶつかり合い、法案が通るまでに多くの修正や取捨選択が起きる。
その結果、本当に必要で効果的な法案が残る可能性が高まる点でメリットも期待できる。
企業が注目すべきは「今、勢いのある政党」と関係を持とうとしたり、乗っかろうとしたりすることではない。むしろ政党にとらわれず、自社の事業に関わる課題を解決しようとする議員や個別の政策グループを見極めることだ。
自民党以外から出る法案や修正案にも幅広く目を通し、政策の芽を早期に見つける姿勢がビジネス機会につながるだろう。
時の政権や与党の存在感が以前と比較して低下してきている今後の市場環境を踏まえると、企業にとって経営と特定の政党の動向を切り離して考えることが可能な局面になってくるだろう。次の市場変動期に真価を発揮するために、今のうちから備えておきたい。
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