地方百貨店にイオン、無印、100円ショップ――“異色テナント”で生き残る現場の工夫中編(1/3 ページ)

» 2025年09月29日 07時00分 公開

 全国各地で閉店が続く地方百貨店。一方で、現在も営業を続けている店舗は少なからず存在する。そこで、今回は前・中・後編3回にわたって、人口20万人以下の地方小都市(東京・埼玉・大阪・兵庫など大都市圏除く)に立地し現在も営業を続ける百貨店20店舗の特徴を調査し、それらの営業努力の様子を見ていく。

 前編では、営業を続ける地方小都市の百貨店の建物や立地環境について調査し、意外にもすでに古い建物の店舗は殆ど淘汰されており「比較的新しい建物が多い」こと、また大都市圏では珍しい「郊外型ショッピングセンター形態の百貨店」が複数あることなどを明らかにした。

(前編:閉店が続く地方百貨店 それでも生き残る店舗の「意外な共通点」とは?

 中編では、いよいよ百貨店の主業である「小売業」に焦点を当て、地方小都市に立地する地方百貨店のテナントや経営の特徴を見ていきたい。

地方で相次ぐ百貨店の閉店。小都市であっても営業を続ける店舗にはどういった特徴があるのだろうか。写真は2009年に閉店した鹿児島三越(撮影:若杉優貴)

著者紹介:若杉優貴(わかすぎ ゆうき)/都市商業研究所

都市商業ライター。大分県別府市出身。

熊本大学・広島大学大学院を経て、久留米大学大学院在籍時にまちづくり・商業研究団体「都市商業研究所」に参画。

大型店や商店街でのトレンドを中心に、台湾・アニメ・アイドルなど多様な分野での執筆を行いつつ2021年に博士学位取得。専攻は商業地理学、趣味は地方百貨店と商店街めぐり。

アイコンの似顔絵は歌手・アーティストの三原海さんに描いていただきました。


海外ブランドがなくても大丈夫? 地方百貨店に根強い「デパコス需要」

 まず調査対象とした地方の百貨店20店舗の売り場・テナントなど、小売店としての「館内の特徴」を中心に見ていく。

 地方小都市に立地する百貨店では「百貨店の華」ともいうべき著名海外ブランドを扱っている店舗は少ない。調査対象とした20店のうち、1ブランドでも取り扱いがあるのは半分ほどの9店舗のみ。近年、地方からの撤退が相次いでいる「ルイ・ヴィトン」を扱っている店舗はゼロであり、多くは「コーチ」や化粧品の「シャネル」のみだ。

 とはいえ、一般的な「百貨店向け商材」を扱っていないわけではない。

 例えば、幅広い世代からの人気を集める百貨店向け商材である「デパコス」(百貨店専売コスメ)の代表格「資生堂の百貨店ラインの商品」を扱っていないのはわずか2店舗のみ。「現在は日本百貨店協会に加盟していない店舗(経営者交代で脱退)」と「化粧品全ての取り扱いを廃止した店舗」のみだった。

 海外ブランドが厳しい時代にあっても2019年には丸由百貨店(鳥取市、旧鳥取大丸)にロクシタンが、2024年にはJU米子高島屋(鳥取県米子市)にシャネルがそれぞれ新規オープンするなど、化粧品は地方でも比較的好調だ。もちろん、大きな百貨店の支店である各店は本店からの取り寄せにも対応していることがあり、百貨店商材の選択肢はさらに多くなる。

 化粧品に関していえば、地方小都市の百貨店はマツキヨやココカラファインなどといった格安(プチプラ)コスメを販売する「スーパードラッグストア」を導入しているところが多いのも特徴だろう。化粧品フロアと同じ階にドラッグストアを導入している店舗も複数あり、「若者世代のデパコスの入口」になりやすい仕組みが構築されているともいえる。

表:対象とした百貨店20店舗と立地・建物の特徴(筆者作成)

大手百貨店に「イオン」が入居!――食品は「普段使い」で集客

 山陰の商都・鳥取県米子市の中心商店街にある「JU米子高島屋」。地元企業がFC運営している大手百貨店「高島屋」の店舗で、大手百貨店らしく1階には「コーチ」や「ディオール」などといった海外ブランドも並んでいる。しかし、地階に降りるとそこに現れたのは、見慣れたマゼンタカラーの看板。

 実は地階の食品売り場は、2022年6月にイオングループの食品スーパーマーケット「マックスバリュ」に転換しており、陳列棚には安価なプライベートブランド「トップバリュ」が数多く並ぶ。

鳥取県米子市の「JU米子高島屋」。大手百貨店のFCだがイオンのスーパーが同居、買い物難民の発生防止に寄与する。隣接する島根県は百貨店が消滅しているため、松江市の顧客も少なくない(2024年にアーケードなどが改装されたため現状と異なる、撮影:若杉優貴)

 このように、地方の百貨店では集客の要である食品売り場にテナントとして他社のスーパーマーケットを導入している例や、自社系列のスーパーマーケット、もしくは直営であっても普段使いできるようなスーパーマーケット業態としているところが多い。

 しかし食品売り場が「スーパーマーケット業態」といえども、多くの店舗では百貨店らしい高級食品や、贈答用の銘菓販売なども行われている。

 先述したJU米子高島屋でも隣接する別館「フードスタジオ カクバン」で全国の銘菓をはじめ、地元の銘酒・銘品などを購入できる。

 また、同じ米子市内にあるJU米子高島屋のライバル百貨店「米子しんまち天満屋」の食品売り場も、直営売り場に加えて岡山県に本店を置く食品スーパー「マルイ」を導入している。

 地方では中心市街地の大型店撤退が相次いでおり、百貨店が「買い物難民の発生を防ぐ最後の砦(とりで)」となっている場合も少なくない。多くの地方の百貨店は「普段使いの食品スーパー」+「ハレの日の高級食品」の2本柱によって近隣・広域客の両方の集客を図り、また来店頻度を増やすことによって、店全体の集客力の底上げにつなげているのだ。

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