FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックスタートアップにて金融商品取引業者の設立や事業会社向けサービス構築を手がけたのち、広告DX会社を創業。サム・アルトマン氏創立のWorld財団における日本コミュニティスペシャリストを経てX Capital株式会社へ参画。
クリエイティブ職はAIでは代替できない──はずだった。
10月、Googleを運営する米Alphabetが、同社のデザイン業務を中心に、100人以上の削減に踏み切ったという報道がIT業界に衝撃を与えた。
これまでAIによる雇用の代替は、主にデータ入力や製造ラインのような定型的な業務が中心とされてきた。
創造性や専門性が求められるはずのデザイナーという職種は「人間ならでは」と考えられてきたが、近年の目覚ましい生成AI技術の発達に伴い、われわれが想定していたよりも速いスピードで、AIが知的労働の領域にも頭角を現してきた。
事態の本質はコストカットや業務効率化にとどまらない。企業は事業構造と人材ポートフォリオを再定義しようとしている。Googleの対応はじきに日本企業にも波及してくることだろう。ホワイトカラーの専門職の未来を占う上で、Googleが示唆するものは何か。
2023年から2025年にかけては、テクノロジー業界全体で人員削減の嵐が吹き荒れており、ビッグテックは数万人規模の従業員を解雇してきた。
米MicrosoftはAIインフラに巨額の投資をする一方で、複数回にわたり計1万5000人以上の人員を削減。
コンサルティング大手Accentureは、過去3年間で人員整理に関連する費用として20億ドル以上を費やし、直近3カ月で1万1000人以上を削減した。同社のジュリーCEOは、リスキリングが現実的な道ではない場合、従業員に退職してもらう旨を明らかにしている。
企業はもはや全従業員の再教育を待つ余裕はなく、AI時代に適合できないスキルセットを持つ人材を切り離し、AIネイティブな人材へと入れ替えることで、事業変革のスピードを上げようとしているのだ。
その影響は経済統計をゆがめるほどになっている。
生成AIが勃興した2023年以降、失業率と株価が連動しなくなるどころか、失業率が上がっているのに株価も上がるという従来と逆の相関関係が見られるほどになっている。
この動きは、パンデミック期の過剰雇用の反動というフェーズをとうに過ぎ、いまや「AIへの適応」という明確な目的を持った構造転換へと移行している。
今回の人員削減で本当に注目すべきは、デザインという職種よりも、むしろ対象となったタスクではないだろうか。
削減対象となったタスクは「定量的ユーザーエクスペリエンス(UX)リサーチ」や「プラットフォーム・サービスエクスペリエンス」などだ。
これらの職務は、データやアンケート調査を用いてユーザーの行動を分析し、製品デザインの意思決定に貢献する役割を担う。この分野は、デザイン職ではありつつも、データに基づいた客観的・定量的な判断が求められるタスクだ。
近年の生成AIや高度な分析ツールの進化は、膨大なユーザーデータの収集・解析、デザインパターンの提案を可能にしつつある。これまで専門家が時間をかけて行ってきたプロセスを、瞬時に、かつ大規模に実行できる能力を手に入れ始めたのだ。
Googleの判断は、デザイナーという職能全体を不要と断じたのではなく、その業務内容を精査し、AIに代替可能な部分を切り離すという、合理的な経営判断の結果なのである。
では、われわれはこの構造変化にどう向き合うべきなのか。AI解雇の波は、デザイナーという職種の終わりを意味するのではない。むしろ、専門家の在り方を二極化させる「大分岐」の始まりと捉えるべきだ。
一方には、AIを強力なパートナーとして使いこなし、自らの創造性を増幅させるデザイナーがいる。
彼らは、AIが生成した無数の選択肢の中から最適なものを見いだし、戦略的な意図を吹き込み、倫理的な判断を下すといった、より高度な役割を担うことになるだろう。AIに単純な作業を任せることで、人間はより本質的な課題設定やコンセプト創造に集中できるようになる。
もう一方には、これまで培ってきたスキルがAIに代替されてしまうデザイナーもいるはずだ。
決まったサムネイルのフォーマットにその時のタイトルを挿入してデザインファイルを制作する……といったタスクに価値の源泉を置くようになってしまうと、市場での価値を急速に失っていく可能性が高い。
この構造は、デザイン業界に限った話ではない。弁護士、会計士、プログラマー、そして記者という職業に至るまで、あらゆる知的労働者が近い将来にこの問いを突きつけられることになるだろう。
自らの専門性の中で、AIに代替できない価値は何かを各人が定義する必要があるわけだ。
Googleの人員削減からは、今後のAI時代における「プロフェッショナリズム」の再定義を、全ての人々が迫られる社会の到来を示唆している。
変化の波を乗りこなし、AIとの共存の中で自らの価値を再発明できるかが重要になってくる。
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