日立「Lumadaの中核人材」が副業でビール醸造 地域貢献がマネジメント力を育てた理由(2/2 ページ)

» 2025年10月31日 16時15分 公開
[河嶌太郎ITmedia]
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管理職をしながら副業に取り組むワケ

――現在はマネジメントの立場として幅広い役割を担っています。管理職として特に意識していることはありますか。

 今は、昔に比べてメンバーの意見をしっかり聞くことを意識していますね。以前は管理職が多くの指示を現場に落とすイメージが強かったのですが、それだけではうまくいかないと感じています。特にコロナ以降は強く実感しました。

 従来の出社型の仕事の仕方から、リモート勤務が当たり前になっています。私のチームメンバーの多くが、リモートで働いています。若いメンバーは入社当初からリモートが前提なので、全面的な出社は経験していません。ですから出社のメリットを伝えることは、難しい部分もあります。「なぜ出社する必要があるのか」と疑問を持つのも当然です。それらの意見に耳を傾ける必要があると考えています。

 コロナ渦前には、例えばプロジェクトルームに入って顔を突き合わせ、仲間意識を培いながら仕事を進めた経験がありましたよね。それらの良い点も多くあると考えています。しかし、その経験がない世代の社員も、当然ながら増えているわけです。昔の成功体験や自分の世代の感覚だけでは、チームを引っ張ることが難しくなっています。だからこそ、メンバーの意見を聞き、「あなたはどうしたいのか」となるべく問いかけるようにしています。

 時には「自分にはなかった発想や考え方だな」と感じることもあります。ですが、それを頭ごなしに否定するのではなく、可能な限り耳を傾け、採用できる部分は取り入れる。そうすることで、本人たちの自律性を高めるようにしています。

――時代の変化によって、管理職に求められるスキルも高度化していませんか。

 正直に言うと、その分マネジメントの負荷は上がっていると感じます。メンバーの意見を一つ一つ聞くには相当な工数がかかります。

 リモート中心になってきたことによって、会議もマネジメント量も増えていると感じています。だからこそ、マネジメントの在り方も二極化していくかもしれません。多様な声を拾った上でチームを導くスタイルと、従来通りのトップダウンで効率重視のスタイル。その両方が、今後もケースバイケースで併存していくのではないかと思います。

 私はLumadaの事業が移管されてきた際、その事業をやってきたチームの中に、いきなり入ってマネジメントをする立場になりました。メンバーもほとんどが初対面で「完全にアウェー」の状態からマネジメントにチャレンジすることになりました。それぞれのバックグラウンドも違うし、仕事のやり方も異なる。だからこそ、一つ一つ言葉を工夫して伝えたり、やりとりを重ねて理解を積み上げたりする必要がありました。

 これからのマネージャーには、多様性を理解し、感情面を含めて「人を動かすスキル」が求められると思います。意思決定だけでなく、想像力と理解力を持ちながら、多様な個を束ねて成果を出すことが大事になるのではないでしょうか。

OMORI FAN CLUBの拠点「東京∞景」(トウキョウハッケイ)の店内

副業が本業にもたらした影響 マネジメントに生きた?

――日立での部長職としてのマネジメント業務と、副業のビール醸造活動は、一見すると全く違う分野に思えます。ご自身の中でつながっている部分はありますか。

 それはありますね。日立でやっている仕事は基本的にはB2Bの世界ですが、ビールの世界は完全にB2Cです。そこは大きく違います。分かりやすい例を挙げると、日立でビジネスの企画を立案して、実際にサービスを開発したとしても、成果が見えるのは数カ月後や1年後かもしれません。でもビールはサーブした瞬間に、顧客の反応が返ってきます。その期間の違いは非常に大きな違いです。おいしければお客さまの笑顔がすぐに見えますし、ダメなら逆に首をかしげられる可能性もあります。そのダイレクトさとスピード感は、私にとって新鮮な学びになっています。

 ブルワリーの仲間と議論するときは、普段の日立のマネジャー目線とは逆で、私はできるだけファシリテートはせず、聞き役に回るようにしていることが多いです。一人一人のバックボーンや考え方が日立の社員とは全く違うので、「なるほど、そういう見方をするのか」と刺激を受けることが多いですね。自分はプレゼンや企画資料をまとめたり、言語化したりするところで貢献していますが、むしろ人の話を聞く姿勢を学ぶ場になっています。

 この経験は、日立での本業にも役立っていると感じます。特に顧客へのプレゼンテーションでは、難解なことをいかに分かりやすく説明するかが重要です。Lumadaのように外から見ると分かりにくい概念をどう伝えるか。そこで副業のB2Cで得た「相手起点でシンプルに価値を伝える」感覚が生きていると思います。

 自戒を込めてお話すると、われわれの資料はどうしても「自分たち側が言いたいこと」を詰め込みがちで、相手にとっては伝わらない、かつ膨大な物量になってしまうことが良くあります。しかし、ブルワリーでの経験から「なるべくシンプルに伝え切る」意識が強まりました。合意形成の仕方やプレゼン資料の作り方にも、よい影響が出ていると実感しています。

――副業での学びが、社内へのマネジメントに生きた点はありますか。

 想像力と柔軟性が鍛えられました。過去の経験値頼みの意思決定を、極力避けられるようになりましたね。以前は自分の成功体験に多くの判断が引っ張られがちでしたが、今は他者のやり方に委ねるほうが良い場面では躊躇(ちゅうちょ)なく任せられます。状況をニュートラルに見極める癖が付きましたね。

「副業によって、想像力と柔軟性が鍛えられました」と話す斎藤さん
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