「あの商品はどうして人気?」「あのブームはなぜ起きた?」その裏側にはユーザーの心を掴む仕掛けがある──。この連載では、アプリやサービスのユーザー体験(UX)を考える専門家、グッドパッチのUXデザイナーが今話題のサービスやプロダクトをUXの視点で解説。マーケティングにも生きる、UXの心得をお届けします。
「ゲストがスマートフォンの画面を見るたびに、パークの“魔法”が壊れてしまう」――ついに、ディズニーリゾートの体験設計を担う、ウォルト・ディズニー・イマジニアリングのチーフ・クリエイティブ・オフィサーがこの旨の発言を公表しました。
東京ディズニーリゾートを含む世界各地のパークでは、ここ数年で公式アプリやデジタルチケット、プレミアアクセス、モバイルオーダーなど、スマホを前提とした仕組みが一気に増えました。
その結果、SNSや口コミには「事前に情報をインプットしておかないと、パークを十分に楽しめない」「情報をうまく扱える人だけが得をしている」といった声が多くみられるようになりました。
パーク側は、待ち時間の短縮やスムーズな動線づくりなど、“体験の最大化”を目指して、スマホというテクノロジーを導入しています。ゲスト側も「限られた1日をできるだけ無駄なく楽しみたい」という思いから、攻略情報や最適ルートを追いかけるようになっているはずなのに……。
なぜ「スマホ依存」「情報を知らないと楽しめない」という感覚が、これほどまで広がっているのでしょうか。
今回は、東京ディズニーランド/シーでの体験を題材に、「パークを最大限楽しむ」という満足感はどうすればつくれるのかを、ユーザー体験の本質に立ち戻りながら探索していきます。
まずは、ディズニーの体験がどのように変化してきたのかを簡単に振り返ってみましょう。少し前までのディズニーリゾートでは、紙のチケットとマップが基本でした。パークに着いたらゲートでチケットを見せ、入り口でもらったマップを片手に、目の前に見えるアトラクションやショーを「その場で決めながら」回っていく。
無料のファストパスはありましたが、対応しているアトラクションは限られており、「取りたい人が、対象のアトラクションまで走って取りに行く」ものでした。待ち時間はアトラクションの入り口付近にあるボードに表示されていました。
ディズニーの公式アプリでチケットが購入できるようになった2018年以降も、プレゼントとしての購入や、思い出に残しておきたいという需要から紙のチケットもしばらく人気だったと記憶しています。
つまり当時のディズニーでは、情報は「現地で目に入るもの」が中心で、プランは「なんとなく歩きながら、その場で決める」という、かなり“アナログ寄り”のUXでした。
現在では、チケットは事前にオンライン購入し、待ち時間やショーのスケジュールは公式アプリで確認できます。ディズニー・プレミアアクセス(対象施設の体験時間や入場時刻を指定して予約できる有料サービス、以下DPA)や、スタンバイパス(時間指定の整理券)で事前にアトラクションの時間を押さえ、レストランは事前予約やモバイルオーダーが前提です。
「スマホとアプリがなければ、パークの全体像が見えない」ほどに、デジタルが前提の設計に変わったといっても過言ではありません。結果として、ディズニーの1日は「なんとなく来て、目の前のものを楽しむ」体験から「アプリと一緒に1日の予定を“設計”する」という体験へと、静かにシフトしました。
もちろん、これは悪い変化ばかりではありません。後述するように、スマホ前提の仕組みは「待ち時間の短縮」や「食事する席や場所を確保できない『食事難民』対策」といった意味で、時間の使い方を大きく改善しています。
筆者が公式アプリを通じて体験したディズニーの「魔法」は、ピーターパンのアトラクションで起こりました。アトラクションのDPAを取得していたものの、システム障害によりアトラクションが運休に。本来であれば、時間指定のそのDPAは無効になるはずでした。
ところが、スマホの中のDPAは、アプリ上で瞬時に内容が書き換えられ、「特定のアトラクション専用」から「全てのアトラクション・全ての時間帯で使える"魔法のDPA"」へと変わりました。
乗りたかったアトラクションに乗れない……というガッカリ体験が一転しました。争奪戦で取得を諦めていたアトラクション『アナとエルサのフローズンジャーニー』のDPAとして使うことができ、むしろ「本来なら乗れなかったはずのアトラクションに乗れてしまった」という、まさに魔法のような体験へと変わったのです。
これはDPAがアプリ内にあるからこそできる「体験のアップデート」で、残念体験が感動体験に変わった瞬間といえます。
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