「IT部門」を持たない中小企業が、AIで年間1368時間の業務削減を実現できたワケ(4/4 ページ)

» 2026年02月17日 07時30分 公開
[熊谷紗希ITmedia]
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実装スピードを早めた「データ整備」

 他にも、リノベ事業部では顧客へのヒアリング内容や質問リストの自動生成、補助金進捗管理・書類作成、概算見積作成を効率化することで、月間約70時間の業務時間を削減。

 施工管理部では、GASやAIを活用し、住宅設備搬入日の定期連絡を自動化。また、発注書の一括作成により作業の効率化と最終確認のミス防止も実現し、月間合計約3.2時間の業務削減を達成した。

 AI推進プロジェクトに参加した全10事業部がそれぞれ成果を上げているわけだが、なぜ1年という短期間で現場実装と成果創出まで実現できたのか。それは、AI活用に臨む企業が直面する「データの整備」という問題を同社が抱えていなかったことが大きい。

 AIを活用するためには、AIに学習させるコンテンツ(データ)が必要だ。データが古かったり、事業部ごとで導入しているシステムが異なったりすると、そもそもAIに学習させるデータを整えるという前段階に多くの時間を割かなくてはいけなくなる。

 「AI推進プロジェクトのためのデータ整備などはしていません。当社では『足跡残し』と呼んでいるドキュメント、もしくは動画に、業務のマニュアルやプロセス、ノウハウを全て記録しています。そこに情報が集約されているので、今回のプロジェクトでも課題の特定にかける時間を大幅に短縮できました」

足跡残し。建設業界にありがちな「背中を見て覚えろ」という暗黙知の教育を廃止し、新入社員が自身の学びを形式知化して次の世代へ引き継ぐことで、現在では1万4000本以上の動画マニュアルが蓄積されている

 また、経営層が現場の取り組みに細かく口を出すのではなく、見守る姿勢が強かったのも心理的安全性につながり、各事業部が成果を上げられた理由なのではないかと中村氏は話す。

 「経営層から『AIを使って変えた仕様を逐一報告して』といった依頼はなく、運用の部分は現場に任せてくれていました。ゴールと課題感が明確で、そこまでの道筋がしっかり引けていれば、信頼して応援するというスタンスが私たちとしては非常にやりやすかったと感じています」

 AI推進プロジェクトだけでなく、全社的にAIを活用する動きを広げるための取り組みも行われている。半年に1回、全社員が参加できる「AI選手権」を開催。業務削減時間への貢献という点が審査基準となっており、1等を獲得したチームは1人当たり10万円が支給される。

AI選手権の様子

 AI推進プロジェクトにより、事業部の業務効率化への貢献が可視化され、社員の内発的モチベーションが高まる。さらに、AI選手権での賞金という金銭的なモチベーションが同社のAI活用の取り組みを強固なものにしている。

 専門部署や高度なIT人材がいなくても、適切な学びの機会と現場主導の推進体制、そして日々の業務を可視化・蓄積する基盤があれば、AIは一部の先進企業だけのものではない。そんな可能性を、アイニコグループの挑戦は示している。

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