少額未払いの問題はフィットネス業界に限らない。病院の医療費未払いは全国で13億円超に上り、地方自治体でも数十〜数百円単位の少額債権が「塩漬け」になっている実態が報じられている。養育費の未払いも社会問題化して久しい。金額が小さい以上、従来の回収手段では費用対効果が合わない。かといって放置すれば、債権者は損失を被り、債務者は信用情報に傷がつく。誰も得をしない構造が放置されてきた。
ODRの適用領域は企業向けの債権回収にとどまらない。2025年には、離婚調停に特化したODRサービス「wakai」(ワカイ)が登場した。運営するDDR(東京都港区)の代表、的場令紋氏は自身の離婚調停の経験から起業を決意したという。
従来の離婚調停は申し立てから成立まで平均7カ月以上かかり、期日は平日の昼間に限られる。弁護士に依頼すれば費用は平均80万円程度に膨らむ。wakaiはスマートフォン上で申し立てから合意書作成まで完結し、調停人として弁護士が中立の立場で関与する。土日や夜間でも調停が可能で、費用は最安18万円からと大幅に抑えられる。
厚生労働省によると、ひとり親世帯の約7割が養育費を受け取れていない。「相手と関わりたくない」「手続きが分からない」といった理由で、多くの人が泣き寝入りしている。非対面で手続きが進むODRは、こうした心理的ハードルを下げる可能性がある。
もっとも、ODRが万能というわけではない。OneNegotiationの解決率は50%だが、裏を返せば半数は解決に至らない。相手方が通知を無視すれば交渉のテーブルにすらつけず、悪意を持って支払いを拒む債務者には効果が薄い。
執行力の問題もある。裁判所の判決には強制執行力があるが、民間ODRの合意書にはない。合意しても履行されなければ、結局は裁判所に持ち込むしかない。政府は特定和解制度の拡充により、一定の条件下でODRの合意にも執行力を付与する方向で法整備を進めているが、現時点では限定的だ。
それでも、裁判は時間も費用もかかる。泣き寝入りは問題を先送りするだけだ。「払う意思はあるが、すぐには払えない」──そんな債務者との間に対話の場を設けるだけで、解決する紛争は少なくない。完璧ではないが、これまで存在しなかった選択肢が生まれたことの意味は大きい。
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