3つ目はAIを使ってサイロ化された業務アプリケーションを可視化し、インテリジェントなシステム運用を可能にするオートメーション(自動化)技術だ。「IBM Concert」は複数の管理ツールに散らばったデータを一つに統合し、ユーザーがシステム全体を見渡せるようにするサービスだ。ソフトウエアの脆弱性も自動的に発見し、修復まで担ってくれるという。
4つ目は複数のクラウドやオンプレミス(自社内)環境に分散しているデータを、安全性を保ちながら統合的に活用できるようにするハイブリッド技術だ。こうした情報基盤を開発するため、IBMはクラウドとオンプレミスのデータ統合技術を持つ米webMethodsを、独Software AGから約21億ユーロ(同約3400億円)で買収した。またマルチクラウド環境を構築・管理する技術を持つ米HashiCorpを、約64億ドル(同約9800億円)で買収し、データをハイブリッドに活用できる基盤を構築した。
AIの急速な広がりを受け、最近はデータやAIモデルのSovereignty(ソブリニティ=主権)を求める声が高まっている。IBMはそうした要請に対してはガバナンスやコンプライアンスのための新しい基盤技術「IBM Sovereign Core」を1月に発表。Thinkで一般提供することを表明した。
IBM Sovereign Coreは政府や企業などが持つデータやAIモデル、その利用主権などを顧客側が保持しながら生成AIを利用できるようにする技術だ。IBMが2018年に約340億ドル(同3兆8000億円)で買収した米Red Hatのハイブリッドクラウド技術「OpenShift」をもとに開発した。
では、この戦略は実際のビジネスをどう変えるのか。会場ではエネルギー、医療、金融など、膨大なデータを扱う各界のリーダー企業が成果を報告した。
筆頭はサウジアラビアの石油会社Saudi Aramcoだ。同社は毎日生まれる100億ものデータをAIで分析し、約52億ドル(約8300億円)もの利益を創出。80年来のパートナーであるIBMとの協力体制を、AIによって新たな次元へと引き上げている。
医療分野では、AIエージェントによる劇的な「業務の再定義」が報告された。米Elevance Healthは、年間1億3000万件に及ぶ顧客の電話対応の基盤をAI化した。
また全米に51の病院を運営する米Providence Healthは、12万人規模の従業員の人事関連業務をAIエージェントに委ねた。その結果、採用や配置にかかる管理業務時間を90%削減しつつ、精度を70%向上させた。これは単なる自動化ではなく、複雑な人的資本経営をAIで支援する先行事例といえるだろう。
金融・保険分野では仏金融大手BNP Paribasのジャン=ミッシェル・ガルシアCTOが登壇。「単なる実験から、2023年にはAIを大規模なビジネス成果へと変貌させた」と表明した。AIの利用環境は刻々と変わるが、Red HatのOpenShift上にシステムを構築し、IBM Bobの開発ツールを活用することで、臨機応変にソフトウエアの開発を進められるようになったと語った。
IBMのクリシュナCEOはさらに「生成AIの活用と並び、企業にとって重要なのはハイブリッドクラウドと量子コンピューティングの活用だ」と強調した。IBMは超伝導方式による量子コンピューターを開発し、世界ですでに80台以上が稼働している。従来のコンピューターよりも量子コンピューターの方が性能が上回るという「量子優位性」を2026年中にも実証し、2029年には実用に耐える「フォールトトレラント量子コンピューターを提供する」という見通しを明らかにした。
AIと量子コンピューティングは、これまで別物として扱われてきた。クリシュナ氏は「AIと量子コンピューティングは補完関係をなす技術だ」と指摘。その例として臨床試験などにAIを積極的に活用している米医療機関、クリーブランド・クリニックの例を紹介した。同クリニックの医師、セーピル・エルズルムEVPは心臓病の臨床試験での事例を挙げ「従来の方法では3カ月にわずか14人しか登録できなかったが、AIのアルゴリズムを活用することでわずか1週間に1500人以上をスクリーニングし、30人を登録することができた」と述べた。
クリーブランド・クリニックは、IBMと10年間の協力関係を結び、2023年に民間セクターとして世界で初めて量子コンピューターを導入。2026年5月には日本の理化学研究所(理研)のスーパーコンピューター「富岳」や東京大学のスパコン「Miyabi-G」などを連携させ、約1万2000原子からなるタンパク質の3次元シミュレーションに成功した。18カ月前に処理できたのはわずか10原子だったので「格段の進歩だ」(エルズルム氏)という。
量子コンピューターとスパコンが、それぞれ役割を分担することで成し得た快挙で、生物学における量子コンピューティングの有用性を実証した。
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