「正直に言うと『縦割り』はまだまだある」――デジタル庁の関治之氏(シニアエキスパート)はこう話す。官公庁の組織内、あるいは中央省庁と地方自治体の間などで長年指摘されてきた“縦割り問題”は、今なお根深く残っているようだ。
一方で、“組織の壁”を乗り越えようとする試行錯誤が生まれている。デジタル庁が主導する「デジタル改革共創プラットフォーム」は、政府機関と地方公共団体の職員ら約1万5000人がビジネスチャットツール「Slack」で密にコミュニケーションを取る試みだ。
関氏は「Slackは単なるツールに過ぎない」と語り「DXを掲げたとき『デジタル』が目的化した時代があった。手段が目的化するとうまくいかない」と続ける。
デジタル化やDXの遅れが指摘されてきた行政組織。その現状を変革しようと模索する現場を取材すると、民間企業にも通じるノウハウが詰まっていた。
本記事は、アイティメディアが運営する動画メディア「TechLIVE」で公開した動画『“行政の縦割り”は解消するのか?行政の"モンダイ”のその後を調べる』を基に作成しています。動画の内容は2025年8月25日公開当時のものです。
官公庁のデジタル化を阻んできた“縦割り行政”。2000年代に政府が掲げたITインフラ構想「e-Japan」も、内閣官房、総務省、経済産業省などが旗を振って利活用を推進したが、他の官公庁が後に続かないということがあったという。
「中央省庁と自治体」「自治体と自治体」の間にも壁、あるいは溝がある。1700以上ある自治体は、組織の規模や人的・資金的リソース、DXへの理解度や推進度などに大きな差がある。
人口1万人未満の小規模自治体は500を超え、そこでは行政職員1人が複数の業務を兼務しているケースが珍しくない。中央省庁から大量の「通達」「ガイドライン」が日々下りてくる中、その内容を読み解くだけで1日が終わってしまうこともあると関氏は説明する。
「専門知識がないと読み解けない通達もあり『こういう場合はどうすればいいか』といった素朴な疑問は、従来は近隣自治体の担当者に電話で聞いていた。それも限界がある」(関氏)
中央省庁にとっても課題があった。国の政策は「通達を展開すればスムーズに進む」ものではない。市民と向き合う自治体現場からのフィードバックを受けて、軌道修正しながら運用するのが理想だが、そうした密な意思疎通が難しかった。
こうした課題を受けて、中央省庁と自治体の距離を縮めたり意見交換を促進したりするために生まれたのが、デジタル改革共創プラットフォームだ。1530の自治体から約1万3300人、38の政府機関から約2100人が参加している(2026年3月31日時点)。
立ち上げ当初は「Facebook」の「グループ機能」を使っており、一時は独自ツールの開発を試みるなど試行錯誤を繰り返して、職員が日常的に使いやすいツールとしてSlackに落ち着いたという。
「チャットツールに慣れてない職員が多く、何千人もいるところに入ってきていきなり意見を言うことはハードルが相当高いと思う」(関氏)
そこでデジタル庁は、参加者が安心して発言でき、コミュニティーを活性化させるための工夫をこらした。
1つ目の工夫が「Slackチャンネルの細分化」だ。「マイナポータルに関するチャンネル」といったように、特定のテーマや業務ごとに細かく分けることで、職員が自分の興味のある領域や担当業務のチャンネルに迷わず参加できるようにした。
チャンネルは政策や地域ごとに分かれており、その数は約140に上る(2025年10月1日時点)。
2つ目の工夫が、仕事の本筋とは関係ない「自己紹介」「雑談」などの専用チャンネルを設置したことだ。気軽に投稿できる環境を整えて、ツールに慣れてもらえるようにした。
3つ目の工夫が「アンバサダー制度」の整備だ。参加者の中から、自発的に盛り上げてくれる職員や、特定の専門領域に詳しい職員を「アンバサダー」に任命。彼らが主体となって自主的な企画を立ち上げたり、コミュニティーを盛り上げる方法を共に考えたりする仕組みを作った。
新しい職員が参加した後の「オンボーディング」(定着支援)には、アンバサダーが携わっている。
デジタル改革共創プラットフォームを導入したことで、現場は確実に変わっている。デジタル庁の担当者は「1日の投稿数は何百件にもなる。半日見ないだけで未読件数がすごいことになる」と話す。
同プラットフォームは、行政の実務の平準化につながっているという。政策や施策を展開する際、国のガイドラインや通達だけでは現場での解釈に違いが生じ、自治体ごとに窓口対応に差が出るという課題があった。
「デジタル改革共創プラットフォームでは『この対応はどうしていますか?』『このときはこうしました』などと、オープンに相談できる」(関氏)
自治体職員が中心になって、Slackのドキュメント機能「キャンバス」に対応事例集や用語集をまとめる動きも生まれた。
「電話で聞くなど一対一で相談しても解決するが、オープンにすれば、やりとりを見て他の自治体が学べる点に大きな意義がある」(関氏)
デジタル庁の取り組みは“小さな一歩”かもしれないが、変化が確実に起きている。「組織の縦割り」「ツール活用が進まない」といった課題は、行政に限らずあらゆる組織に共通するはずだ。同庁が始めた“優しいDX”は、DX推進のモデルケースの一つといえるだろう。
「正論」では動かない自治体DX 成功事例の横展開がプロジェクトを停滞させる理由
「職員が激減」に備えよ──2040年問題に向けて「自治体」に残された生存戦略
なぜ自治体のベンダーロックインは繰り返されるのか? 背景にある「発注者の3つの心理」
なぜ自治体の仕事は誤解されるのか 行政現場に潜む「情報の非対称性」の正体
“形だけ”の「自治体システム標準化」になりつつある今、オープンソース化は救世主となるか?Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
本記事は制作段階でChatGPT等の生成系AIサービスを利用していますが、文責は編集部に帰属します。
Special
PR注目記事ランキング