ライスストッカーのヒットによって会社は再び成長軌道に乗った。渡辺氏によると、同社の商品開発や経営判断の原点には、父の「まずやってみる」という行動力と、母の「自分ならこんなものが欲しい」という生活者目線があるという。実際、オバケツもライスストッカーもその発想から生まれた。
また同社は、創業から100年以上にわたって「無借金経営」を続けている。
1980年代のバブル絶頂期、周囲の企業が設備投資などを急ぐなか、父は「日本はこのままでは絶対あかんようになる」と家族に話し、身の丈を超えた投資を頑なに拒んだ。
「自分たちができる範囲内でやる。オバケツを売った利益で機械を買い、貯金を切り崩して設備を整える。それが父からの教えでした」
この「自前主義」は、今も徹底されている。工場の機械修理はもちろん、床のセメント塗りなど、できることはなるべく自分たちの手で行う。これは単に外注コストを削減するためだけではない。道具や作業環境を自分たちで整えることもまた、ものづくりの一部だと考えているからだ。
製造現場にも、その思想は息づいている。オバケツは6人の職人がチームとなって20〜40もの工程を経て、一つ一つ手作業で作り上げる。特に「水漏れしない品質」から「(縁などで)手が引っかからない」といったユーザーの安全性に直結する細部の仕上げに至るまで、全製品に厳しい検品を課している。
「海外製の模倣品は、見た目は似せられても、この耐久性と品質までは真似(まね)できません。当たり前のことを愚直に続けてきただけです」
同社の喫緊の課題は、人手不足だ。 オバケツは全工程が手作業のため、作業を体で覚えるまでに5〜6年の歳月が必要になる。根気強くやり抜ける気質が不可欠だ。「オバケツを作りたい」と共感して直接応募してくれる若手を大切に育て、社員が「ここで働けてよかった」と思える環境作りを進めていくという。
2023年には創業100周年を迎え、新シリーズ「TUB」の販売も開始した。傘立てやトレイなどの商品をそろえる。顧客の反応も上々で、将来的にはオバケツと半々の売れ行きになりそうだと予測を立てている。
流行を追わず、20年、30年と長く使い続けられる「ロングライフデザイン」を追求する同社の姿勢は、使い捨てが当たり前になった時代に対する1つのアンサーだと言えるのではないだろうか。
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