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「SpaceXを信じてよかった」 イーロン・マスクに巨額預けた米投資家、“成功を確信した瞬間”明かすPegasus Tech Ventures創業者インタビュー

» 2026年07月08日 07時00分 公開
[田中圭太郎ITmedia]

 6月12日、宇宙ベンチャーの米SpaceXが株式上場を果たした。初日の取引終了後には、時価総額が2兆1000億ドルに達して世界6位になるなど大きな話題を呼んだ。

 「SpaceXを信じてよかった」――。この結果を受けて安堵(あんど)の表情を浮かべたのは、SpaceXに出資するアニス・ウッザマン氏だ。同氏は米シリコンバレーに本社を構える投資会社Pegasus Tech Ventures(ペガサス・テック・ベンチャーズ、以下「ペガサス」)を創業し、AI企業の米OpenAIや米Anthropic、日本ではマネーフォワードなどに投資してきた。

 ペガサスは、SpaceXに数百億円を投資しており、上場後には保有価値が約3000億円に拡大した。ITmedia ビジネスオンラインは、SpaceX上場直後にウッザマン氏の単独インタビューを実施。SpaceX上場の裏側と、同社を率いるイーロン・マスク氏が口外を制限してきたプロジェクトの内幕について明かした。

photo アニス・ウッザマン(Anis Uzzaman)(編集部撮影、以下同)
1975年生まれ。東京工業大学(現・東京科学大学)工学部を卒業後、オクラホマ州立大学大学院で修士、首都大学東京(現・東京都立大学)大学院で博士号を取得。米IBMを経てPegasus Tech Venturesを創業。スタートアップ・ワールドカップ創業者兼会長。投資家としての活動に加え、京都大学経営管理大学院の特命教授を務めるほか、テクノホライゾン(名古屋市)、アステリア(東京都渋谷区)などの社外取締役を歴任。著書に一橋大学名誉教授・米倉誠一郎氏のとの共著『シリコンバレーは日本企業を求めている』(ダイヤモンド社)、『スタートアップ・バイブル』(講談社)、『世界の投資家は、日本企業の何を見ているのか?』(KADOKAWA)など。

本記事は、6月15日の取材に基づいています。記事内で言及のある内容や数字は、取材時点の情報です。

「信じてよかった」 投資家から「ロケット爆発」心配の声も

 SpaceXが、米NASDAQ市場に上場したのは6月12日。新規株式公開(IPO)で史上最大となる750億ドルを調達し、初日の取引は5億株(約800億ドル)を超えた。この3日後、日本に滞在していたウッザマン氏を訪ねると、上場後の感想を率直に述べた。

 「正直ほっとしました。ロケットって爆発するじゃないですか。打ち上げに失敗すると、投資家から『大丈夫なのか』と電話がかかってきていました。でも、やはり信じてよかったですね」(ウッザマン氏)

 ペガサスのメイン事業は、未上場の新興企業に出資して支援すること。もう一つの事業が、企業が設立する投資ファンド「コーポレートベンチャーキャピタル」の運用支援だ。同社は、日本の大企業からも資金を預かってSpaceXに投資していた。ウッザマン氏は「みなさんもかなりほっとしていましたね」と日本企業の反応も明かした。

photo インタビューに応じるウッザマン氏

SpaceXがロケット業界にもたらした「大きな転機」

 SpaceXは、イーロン・マスクCEOが2002年に創業した。当初はロケットの打ち上げが事業のメインだった。しかし、ウッザマン氏は打ち上げ事業については「そこまで成長していない」と指摘した。

 「SpaceXに最初に投資した頃、ロケット打ち上げビジネスの市場規模は約1兆3000億円とされており、今も同程度です。SpaceXは、同市場で60〜70%のシェアを握り、2025年時点で約7500億円の規模でした。打ち上げビジネス自体はそこまで成長していないのですが、打ち上げのコストが下がっているので、収益は上がるでしょう」(ウッザマン氏)

 エンジニアでもあるウッザマン氏は、SpaceXが低コストを実現した最大の理由を、打ち上げの際に空中で切り離される第1段ブースターエンジンを回収し、再利用できるようにしたことだと説明した。

 「以前はブースターエンジン1基を製造するのに数百億円かかり、さらに打ち上げ後は燃えてなくなっていました。SpaceXの主力ロケット『Falcon 9』では、切り離された第1段部分をドローン船で回収することで、再利用を可能にしています。1基当たりのコストが50億〜90億円くらいまで下がったことが、ロケット業界にとって大きな転機でした。次世代ロケット『Starship』では、ステーションに戻ってきたロケットを箸のようなアームでキャッチする技術を開発しており、テストも成功しています」(ウッザマン氏)

「これがフューチャーだと思った……」 Starlinkの衝撃

 打ち上げコストの低下によって生まれたのが、衛星インターネットサービス『Starlink』だった。Falcon 9が各国・各社の衛星を宇宙に運ぶ際、空きスペースがある。そこに相乗りして、SpaceXが自社で製造した衛星を大量に宇宙に運び始めた。

 衛星ベースのインターネットサービスを始めるとマスクCEOから聞いたときに、ウッザマン氏は成長を確信したという。

 「新しい衛星インターネットの説明を受けて、これがフューチャー(未来)だと感じました。今のインターネットは『Wi-Fi』などを使っていても結局はケーブルでつながっていて、基本的に固定電話と同じです。従来の衛星インターネットは、上空3万〜4万キロの高軌道に衛星があり、運が悪ければつながりません。Starlinkは上空約750キロの低軌道に約1万基の衛星を打ち上げているので、通信速度も速く、よくつながります」(ウッザマン氏)

 ウッザマン氏は、ペガサスがSpaceXへの追加投資を決めた際の、マスクCEOの説明を教えてくれた。

 「世界にいる数十億人のうち、今インターネットが使えているのは全体の70〜75%ほどです。Starlinkを始めたとき、マスクCEOは『残る25〜30%の人たちにこのサービスを提供したい。だからSpaceXにもっと投資してほしい』と言いました。これがStarlinkの最初の目標でした。恵まれていない人たちを助けたいと言われれば、投資家も心が動きます。私もそれで追加投資を決めました。Starlinkを毎日使っているユーザーは現在1000万人くらいなので、目標人数を考えるとまだまだ伸びると思います」(ウッザマン氏)

photo Starlinkの構想(出所:ウッザマン氏の資料)

多忙なマスク氏が週3日割くSpaceX 「彼のベビーだ」

 再利用ロケットや衛星インターネットなどの構想を、事業化してきたSpaceX。同社はこれ以外に「Starshipによる有人宇宙旅行」「宇宙経由で世界の主要都市を30分ほどで結ぶ交通網の構想」などを掲げている。ここまで着実に成長できた背景を、ウッザマン氏は「シークレットプロジェクトだったから」と語った。

 「最初に投資をしようとした際、SpaceX側の承認プロセスが非常に厳しいものでした。承認を得た後も『プロジェクトの内容を誰にも言ってはいけない』と言われました。だから、SpaceXに出資した数十人の投資家は、これまで一言も話してきませんでした。それに、マスクCEOは事業計画を一切公表しません。投資家は『数字』を聞きたがるのですが、マスクCEOは売り上げも、利益の話も、事業のことも何も説明せず、会社のビジョンを話しているだけでした」

 事業内容の説明を受けられないのに、ウッザマン氏はなぜSpaceXへの出資を拡大したのか。その理由は、マスクCEOのSpaceXへの向き合い方にあった。

 「マスクCEOはSpaceXのほかに、米Teslaや米xAIなどものすごく多くのものを抱えていますよね。投資をしている中で気付いたのは、マスクCEOが1週間のうちSpaceXに3日間を使っていることです。60〜70%をSpaceXに注力していることになります。つまり、SpaceXは彼にとっては最大のベビーです。このことが私たち投資家にとっては勇気になりました」

 SpaceXは、マスクCEOのビジョンと経営手腕、技術革新によってさまざまな宇宙ビジネスを軌道に乗せてきた。同社は今、宇宙企業とは違う顔を見せているという。ウッザマン氏が語る「もう一つの有望な事業」について、第2回目の記事で紹介する。

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