では、SIerの事業はどこから変化が起きるのか。
伊藤氏が「リアルに空いているスペース」と呼ぶのが、中規模企業向けのシステム市場だ。SaaSの標準機能では要件に届かず、かといって大手SIerに基幹システムを発注する予算もない帯である。
Finatext自身が、この帯の当事者だという。金融関連のライセンス(免許)を持つ子会社が8社あり、人の兼務や異動で組織は複雑ではあるものの、会社の規模はそこまで大きくない。要件を満たすERP(企業資源計画)を入れようとすれば「立ち上げに3億〜4億円」と言われ、断念したという。安価なSaaSを組み合わせ、APIを自前でつないで「無理やりねじ込む」対応を続けてきた。
国内でこの帯に強いのは、オービックやワークスアプリケーションズに代表される業務パッケージベンダーだ。蓄積したカスタマイズ資産の横展開によって、SaaSが届かない個別要件に応えてきた。
この帯で求められるカスタマイズの中身は、実は会計ロジックそのものではない。伊藤氏によれば、例えば「複数の子会社に所属する従業員がどちらの会社でも申請できるようにしたい」「出力するPDFを自社のフォーマットに合わせたい」といった“ビジネスロジックとは関係ない”周辺の要望が積み重なって、カスタマイズの需要になっているという。ネックはコードを書く工数だっただけに、AI駆動開発とAIエージェントの双方でコストが崩れれば、対応できるプレーヤーは一気に広がる。
そのとき効いてくるのが、アーキテクチャ(システム設計)の世代差だ。インターネット上のクラウド時代に基幹システムを作り直してきた「第2世代」では、システム全体の機能を小分けにして独立させ、部分ごとに安全管理を行う手法が標準になっている。これならAIに対して「このデータだけを触りなさい」と制限をかけた上で作業を渡せる。30年前に作られたシステムには、こうしたノウハウがない。
「今の瞬間の技術力というより、今までの技術の差や始めたタイミングの差で、(これからの勝負が)決まってしまう」(伊藤氏)
超大手SIerにしか手が出なかったエンタープライズの個別対応に、規模の小さいソフトウェア会社が入っていける。SoRの参入障壁は残る。崩れるのは、その周りを固めていた個別対応の壁だというわけだ。
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