それでも、筆者が取材してきた大手SIerの間では「金融領域でAI駆動開発は無理だ」という反応が珍しくない。
だが、伊藤氏の見立ては違う。技術的には、もうできる。止めているのは別のものだという。それは社内の安全統制(ガバナンス)だ。難所は、会社の重要なデータベースにAIを直接接続する局面にある。「AIにどこまで作業させていいのか、どこまで権限を渡すのか」といった管理体制が整わず、多くの企業で実証実験止まりになっている。
具体例が権限設計だ。AI時代に必要なのは「全従業員の勤怠データを閲覧できるが、書き込みはできない」といった権限である。エージェントが勤怠を従業員に不利な形で書き換えれば、違法にもなり得る。ところが、人間しか使わない前提で作られてきたシステムには、こうした「データの閲覧は全て可能だが、書き換えは一切認めない」という細かな権限がそもそも用意されていない。人が相手なら、必要がなかったからだ。
このためFinatextは、AIが勝手に外部ソフトを動かさないよう制限し、パスワードの管理や、AIが動いた全記録を残すための統制基盤「MCPaas」(エムシーパス)を2026年中に投入する。金融のような規制産業では「これがないと、エージェントを自社データにアクセスさせることができない」(伊藤氏)。
構造変化は、大手の側も認識している。超大手SIerでAI駆動開発を率いる責任者は、筆者の取材に「AIが全ての成果物を作り、人はそれをレビューする。人の作業とAIの作業が逆転する」と語った。AIに開発させるには「旧来は書かなくてよかった情報を書かなければいけない」。暗黙知の書き起こしという、新しい上流工程が生まれつつある。
伊藤氏は、この先を段階で見る。まずアクセス統制、次にデータ基盤の整備、その先に企業の暗黙知を構造化してAIに渡す「ナレッジストア」が来る。本格化は2〜3年後だという。
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