孫正義――誰もが知る起業家の名前だ。孫氏が投資家としての手腕を振るうソフトバンクグループ(以下、SBG)は、2026年3月期連結決算で純利益が5兆円を突破。「日本企業として史上最高益」をたたき出した。
2024年、ITmedia ビジネスオンラインの取材に応じた米NVIDIAのジェンスン・フアンCEOは「あらゆるテクノロジー革命の世代において、孫さんほど素晴らしい判断をしてきた人はいません」と賛辞を送り、5回連続で成功をつかんだと述べた。フアンCEOは「孫さんだけが注目した」として5人の名前を挙げる(関連記事)。
孫氏は、これらの企業への出資や日本進出の支援を指揮してきた。直近では、米OpenAIへの投資が生成AIブームを捉えたほか、SBGが買収した半導体設計大手の英Arm Holdingsが半導体需要を受けて急成長している。
これまでSBGを「金の卵を生むガチョウ」に例えてきた孫は、6月のSBG株主総会で「を孫会長ではなく孫ガチョウと呼んで」と冗談を飛ばした。では、海外の投資家は、同氏をどう見ているのか。OpenAIなどに巨額を投じたベンチャーキャピタルのトップを取材すると、米シリコンバレーにおける孫氏の影響力が明らかになった。
本記事は、6月15日の取材に基づいています。記事内で言及のある内容や数字は、取材時点の情報です。
取材に応じたのは、米Pegasus Tech Venturesを創業したアニス・ウッザマンCEOだ。同社は、OpenAI、米Anthropic、米SpaceX、米Airbnbなどのスタートアップに投資している。日本企業では、マネーフォワード、空飛ぶクルマを開発するSkyDrive、電気自動車を製造するテラモーターズなどに出資している。
ウッザマン氏は「投資は100%うまくいくわけではないのが当たり前です。孫さんは大部分がうまくいっている」と語り、孫氏を次のように絶賛した。
「リスペクトします。孫さんの実績があるから、海外でも日本が目立っています。特に米国の投資業界は規模が大きいですが、彼のおかげで日本の名前が響いているのは間違いありません」(ウッザマン氏)
ウッザマン氏によると、米国の投資コミュニティーにおいて、SBGが運営する投資ファンド「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」(以下、SVF)から投資を受けるということは「大きなスタンプ」を得たことになるという。同氏は両手を広げて「こんなデカいスタンプですよ」と笑った。
「“SVFのスタンプ”があると会社は成功していきます。孫さんは、触れるもの全てを成功に導く『ゴールデンタッチ』を、いろいろなところに付けてきました」(ウッザマン氏)
ゴールデンタッチ(Golden Touch)は、ギリシア神話に由来する慣用句だ。黄金を好んだ王が、神から「触れたもの全てを黄金に変える能力」を授かる。ここから「金運がある」「金もうけの才能がある」「成功をつかむ力がある」という意味を持つようになった。
孫氏の成功は、強運だけではないとウッザマン氏は語った。そこには、SpaceXを率いるイーロン・マスク氏との共通点があるという。
「投資を判断する際、起業家の『ビジョン』と『勇気』を見ています。大きなことを仕掛ける際、普通はリスクヘッジをしてしまう。マスク氏は、決済サービスの米PayPalの売却で多額の利益を得て、SpaceXを創業しました。しかしロケットの打ち上げに何回も失敗します。銀行口座に残った最後のお金で打ち上げたロケットが成功し、SpaceXのビジネスが成立しました。ギリギリのラインでやること――日本だと、孫さんがギリギリのところにいます。その位置で続けられるのは、世界でも孫さんぐらいでしょう」(ウッザマン氏)
孫氏の立ち回り方についてもウッザマン氏は評価する。米国にAIデータセンターなどを建設する5000億ドル規模の「Stargate Project」では、米政府と緊密に連携している。ウッザマン氏は「トランプ大統領と信頼関係を結べている点は、日本にとっても有益です」と言い、日本の看板をうまく背負っているとする。
孫氏やSBG以外の国内企業も奮闘していると、ウッザマン氏は評する。「コーポレートベンチャーキャピタル」(CVC)と呼ばれる投資ファンドを設立する企業が増えており、その運用支援をPegasus Tech Venturesが手掛けるケースが多いという。
同社は、カルビー、三菱マテリアル、日本特殊陶業などと協業している。2026年4月にはジャパネットホールディングスと共同で運用するCVCファンドを約300億円に拡大すると発表した。海外スタートアップに投資することで、AIやデータ関連の最新テクノロジーを自社事業に生かす狙いがあるという。
「日本のCVCは良くなってきているし、企業も頑張っています。日本企業の多くは、孫さんのように英語を喋れないし、海外での投資経験もないため、これまで保守的でした。しかし『何かしなければ』『アジアでナンバーワンにならなければ』という気持ちが大きくなっているようです。高市政権の影響も大きいでしょう」(ウッザマン氏)
同氏は、日本企業に対して「米国のスタートアップと初期段階から連携してほしい」と訴えた。特に、今後トレンドになるとみられる「フィジカルAI」を挙げて「日本はロボット分野で世界をリードしていた過去があります。フィジカルAIに積極的に関わり、再びリードしてほしい」と期待を込めた。
国内スタートアップに向けては、次のような激励のメッセージを送った。
「日本のスタートアップ起業家は国内を中心に見ています。そこが変わるといいですね。大きな夢を見てほしい。海外の投資家を入れたり、外国人メンバーを迎えるなどグローバルに人を巻き込めば、ユニコーン企業(創業10年以内、評価額が10億ドル以上の企業)が出てくるでしょう」(ウッザマン氏)
同氏は、日本市場が米国市場に連動して成長すると予測する。ウッザマン氏は、日本企業や国内スタートアップが飛躍することへの期待を示して、インタビューを結んだ。
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