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株や不動産も即座に現金化? SBI北尾吉孝会長が仕掛ける「資金調達・財務」の革新(1/2 ページ)

» 2026年07月31日 07時00分 公開
[河嶌太郎ITmedia]

 「既存の取引所は、いずれ立ち行かなくなる」

 7月15日、暗号資産を株式や債券と同じ枠組みで扱う改正金融商品取引法が成立した。歴史的な制度転換の中で、SBIホールディングスの北尾吉孝会長兼社長は、これまでの金融の常識を覆す大胆な構想を打ち上げた。

 同社は6月、暗号資産取引所「bitbank」を運営するビットバンク(東京都中央区)を467億円で完全子会社化すると発表。子会社のSBI VCトレードと合わせた預かり資産は1.1兆円超、暗号資産口座数は約292万となる。SBIの試算によれば、国内暗号資産交換業者において預り資産残高では首位に、暗号資産口座数でもトップクラスの規模となる見通しだ。

6月には暗号資産取引所「bitbank」を運営するビットバンクを467億円で完全子会社化すると発表(以下撮影:河嶌太郎)

 SBIが狙うのは、単なる暗号資産ビジネスの拡大ではない。株式や債券、預金、さらには不動産や将来の売掛金に至るまで、あらゆる資産をデジタル上のデータとして安全に載せ、24時間365日・即日で売買と決済を終わらせる「新しい取引市場」の創設だ。それが、株式や債券の売買記録をブロックチェーン上で処理し、ガバナンスと透明性を高めた「完全オンチェーン取引所」である。

 私設取引システム(PTS)の拡大で得た取引所認可の権利を生かし「24時間365日稼働」「即日決済」(T+0)「NTTグループの光通信技術『IOWN』を活用した」取引プラットフォームを、日本に立ち上げようとしているのだ。

 北尾会長は「全ての価値はトークン化される」と話す。国債や不動産を始めとした現実世界の資産をデジタル化し、ネット上でいつでも少額から取引できるようにするRWA(リアルワールドアセット)市場は、2034年までに1000倍以上に膨らむとされる。その市場拡大を見据え、北尾会長は遅れている日本の税制や送金規制に警鐘を鳴らす。

 約定から決済まで数日を要していた従来の金融でのタイムラグが消え、手元資産の「即時現金化」や「24時間決済」が当たり前になれば、企業の運転資金の拘束は限りなくゼロへと近づく。銀行融資や従来の社債発行に頼らない「新たな資金調達手段」の誕生は、日本企業の財務戦略をどう変えるのか。金融カンファレンス「WebX 2026」の壇上で語られたSBIの新たな一手と、企業が直面する資本市場の地殻変動に迫る。

SBIホールディングスの北尾吉孝会長兼社長

株・債券・預金が即日決済 「オンチェーン化」で変わる企業財務

 SBIグループはオンライン証券で国内首位を走る。SBI証券の口座数は2026年3月末で1582万に達し、2位の楽天証券に250万以上の差がある状況だ。預かり資産残高は約66兆円と、1年で41%増えた。SBIグループが、インターネットが証券取引の主戦場になった20年余りで築いた地位だといえる。

 SBIグループが次の主戦場に見据えるのがブロックチェーンだ。金融取引を分散型のネットワーク上で処理する「オンチェーン金融」を掲げる。北尾会長は「全てのものはトークン化される」と以前から繰り返し語ってきた。

 インターネットの普及以降、金融取引は売買の結果を事業者のサーバに記録する「オンライン」の形で処理されてきた。これをブロックチェーン上の記録に置き換えるのがオンチェーンだ。ブロックチェーン技術を応用したプラットフォーム「イーサリアム」が開発したスマートコントラクト(契約内容をプログラムとして自動実行する仕組み)を使い、取引をブロックチェーン上で自動処理する。

 違いは記録の中身にも及ぶ。オンラインが取引の結果だけを残すのに対し、オンチェーンでは過程も記録する。取引の処理は特定企業のサーバではなく分散型のネットワーク上で行われ、取引の信用を担保するのは「企業の信用」から「改ざんできないプログラムそのもの」へと移行する。

 対象は株式や債券にとどまらない。預金や担保、決済、権利義務に至るまで、あらゆる資産や取引を「改ざんできないデジタル上の権利データ」として直接売買・移転できるようになる。北尾会長はこれを「金融の記録形式の転換」と呼ぶ。

インターネットの普及以降、金融取引は売買の結果を事業者のサーバに記録する「オンライン」の形で処理されてきた。これをブロックチェーン上の記録に置き換えるのがオンチェーンだ

 こうした動きは既に海外で始まっている。2025年6月に米Robinhoodが欧州市場でトークン化した株式の取り扱いを開始し、当初200銘柄ほどだった取り扱い銘柄は短期間で桁違いに増えた。2026年1月には、ニューヨーク証券取引所の親会社である Intercontinental Exchange(ICE、インターコンチネンタル取引所)が、トークン化証券の取引とオンチェーン決済を担うプラットフォームの開発を発表した。

 現実の資産をトークン化するRWAの市場も膨らむ。北尾会長は2034年までに1250倍に拡大するとの予測を示した上で「個人的には1万倍ぐらいになると思っている」と述べた。24時間リアルタイムで取引でき、流動性と資本効率が高まるためだ。

 これは、自社のアセットを持つ一般企業にとっても他人事ではない。不動産やインフラなどの固定資産だけでなく、将来の売掛金や事業キャッシュフローまでをトークン化(RWA化)してオンチェーンで世界中の投資家へ売却できれば、企業は銀行融資や従来の社債発行に頼らない、迅速で多様な「新たな資金調達手段」を手に入れることになる。

 株式市場は世界全体で100兆ドルを超える。北尾会長は「その一部でもトークン化されてオンチェーン取引が可能になれば、資本市場に与えるインパクトは甚大」と期待する。

現実の資産をトークン化するRWA(リアルワールドアセット)の市場も膨らむ

遅れる日本の規制・55%課税へ警鐘 企業が知るべき暗号資産ルール

 米国は、暗号資産を扱う法制度の整備を進めている。2025年7月、ステーブルコインのルールを定めたGENIUS法が成立した。施行は2027年1月を見込む。米証券取引委員会(SEC)は、証券規制を見直して米国金融市場のオンチェーン化を進める「Project Crypto」を打ち出した。管轄する機関を明確にし、暗号資産の包括的な規制の枠組みを定めるクラリティ法も、上院の本会議にかかっている。

 もっとも、こうした制度整備を進めていても、民間の動きには追い付いていない。北尾会長は「政策はいつでも遅れる。先に民間のベンチャーが新しい技術を開発してやり始め、政策は後追いになる。それはそれでいいが、さらに遅らせるような政策は困る」と語る。

 背景にあるのはドルの地位だ。北尾会長は「ステーブルコインの普及がドルを基軸通貨とする体制を支える」と説明する。中国やロシア、サウジアラビアが脱ドルの動きを見せる中、ドル建てのステーブルコインが使われるほど、ドルの決済シェアは保たれるという理屈だ。

米国は、暗号資産を扱う法制度の整備を進めている

 こうした世界的な動きに対して、日本も対応を進めている。2023年6月の改正資金決済法で、ステーブルコインを電子決済手段として認めた。ただ、その後の運用には制約が残る。「1回あたり100万円」という送金上限や滞留の制限があり、北尾会長は「この制約がある限り、利用は一つも増えていかない」と指摘する。国内の暗号資産の口座開設数は1400万を超え、利用者の裾野が広がる一方で、制度が追いついていない実態がある。

 税制も同様だ。暗号資産を売却し、現金化すると雑所得として総合課税の対象となり、最大55%の税率がかかる。2026年3月に成立した改正所得税法で、国内取引所を通じた特定暗号資産の譲渡益に一律20%の申告分離課税を適用することが決まった。ただし適用は金商法改正法の施行翌年からで、2028年1月を予定している。暗号資産を組み入れた上場投資信託(ETF)も、米国では2024年に承認された。一方、日本国内では認められていない。

 北尾会長はこの現状に「55%も税金をかけている国がどこにあるのか。オンチェーン金融を次世代の国家金融インフラと位置付けるのであれば、税制の見直しもETFの解禁も急ぐべきだ」と指摘した。

世界的な動きに対して、日本も対応を進めている
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