なぜ、カラオケの第一興商が「介護現場のインフラ」に? 10年間の不遇を乗り越え“高収益・安定ビジネス”へ化けたワケアセットの再定義(2/3 ページ)

» 2026年08月03日 08時00分 公開
[岡安太志ITmedia]

社内の壁と収益性の壁 10年に及ぶ苦闘

 立ち上げからの約10年間(2001年〜11年)は、苦労の連続だったという。最大の障壁となったのは、外部の競争以上に「社内論理」との戦いだった。

 当時、10社以上のカラオケ機メーカーが夜の繁華街でシェア争いを繰り広げていた。「利益率が高いナイト市場で100%のシェアを取ることが最優先だ。なぜ、未開拓で利益率の低い介護分野にリソースを割くのか」――こうした、経営幹部からの異論を覆すのは容易ではなかった。

最初の10年間はとても苦労したと大坪氏

 収益構造の差も大きな足かせとなった。ナイト市場では、利用者が100円玉を入れるコインボックス方式(売り上げを設置店と分配する方式)が主流で、1店舗当たり最大で月30万円規模の売り上げを稼ぎ出していた。

 対して介護施設は、利用者ではなく介護施設側に機器レンタル料を支払ってもらうことになる。そのため高額な料金は設定できず、初期はサービスの普及を優先して月1万〜2万円程度の低価格で展開せざるを得なかった。それでも、介護施設はナイト市場とは異なりシェア争いが激しくなく、うまくいけば長期的な収益基盤になる可能性があったため、現場は地道に市場開拓を続けた。

現場職員の「痛み」を解決するサービス展開

 転機となったのは、2011年に新たに開発したカラオケ機「FREE DAM」の投入と、現場職員の悩みを解決するサービス設計だった。

介護予防専門コンテンツとエビデンスの積み上げ

 単なるカラオケとしての利用にとどまらず、東京都健康長寿医療センターなどが監修した認知症予防プログラム「コグニサイズ」や機能訓練コンテンツを搭載し、大学や研究機関との共同研究で医学的エビデンスを積み重ねた。

社団法人を立ち上げ、「人」で伴走

 「民間企業による売り込み」という警戒感を払拭するため、第一興商自ら「一般社団法人 日本音楽健康協会」を設立。専門資格「音楽健康指導士」を創設し、人材育成環境を整え、資格を持った社員が介護施設へ訪問しデモを行う実演型営業スタイルを確立した。

介護職員の隠れた離職理由「レクリエーション負担」の解消

 介護現場への営業活動やヒアリングを通じて見えてきた最大の課題――それは、職員にかかる「レクリエーション業務の負担」だった。学校教育だけでは十分に学ぶ機会が少ないレクの準備や進行は大きな心理的負担となっており、サービス残業や離職を引き起こす隠れた要因だった。

 そこで第一興商は、画面上のインストラクターが約30分のプログラムを自動で進行する「おまかせレク」機能や、指定時刻にコンテンツを勝手に再生する「スケジュール機能」を開発した。この機能は現場の施設長から「休まない、風邪を引かない、上司の愚痴も言わない、職員2人分の働きをしてくれる」と絶賛されたという。

高い継続率と収益性の両立

 介護現場では、伴奏だけではなく歌も入った「ガイドボーカル入り」の楽曲がよく使用されている。ガイドボーカル入りの楽曲は、寝たきりの利用者であっても耳や目で参加でき、楽しめる。こうした点が介護職員からも評価され、導入施設の継続率は「ほぼ100%」だという。

 導入機材の減価償却が完了すると、月額利用料がほぼそのまま利益になるため、ヘルスケア事業は営業利益率4割弱を確保する高収益ビジネスへと化けたのである。

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