TBSテレビと系列局12社は協力して、出社回帰による課題を吸い上げてオフィスを一から設計し直し、新オフィス「JNN Park!」を作り上げた。
コロナ禍で外資系のシェアオフィスに入居していた系列局の移転先として、新たにワンフロア1000平米を借り上げた。現在は系列27社のうち12社が入居している。系列局の東京支社長や社員へのヒアリングを重ね、利便性を高めるための工夫を施したことは前編記事【TBSテレビが系列局と作った「12社共生オフィス」 赤坂のワンフロアに集結した理由】で紹介した。
この取り組みは、TBSテレビと系列局同士の交流を生んだだけでなく、東京支社の主要業務である営業活動にも大きく寄与した。テレビ局は日々、広告会社に営業をする必要があるものの、広告会社の担当者は多忙で、アポを取ることすら難しいのが実情だ。そこにコロナ以降のテレワークの普及が重なり、系列局の営業社員は広告会社にアポが取れず、顔を覚えてもらうことすら難しい状況に陥っていた。
JNN Park!では、この課題を解消するため、広告会社との勉強会を開催するなど、オフィスを「稼ぐためのプラットフォーム」にする戦略的な仕掛けを施している。後編では、オフィスを活用した営業力強化について、TBSテレビ メディア戦略局 ネットワーク部の筧哲一(かけひ・のりかず)氏に聞いた。
筧哲一(かけひ・のりかず) TBSテレビメディア戦略局ネットワーク部。早稲田大学卒業後、1993年4月に東京放送(現TBSテレビ)入社。ラジオ営業局、テレビ営業局、スポーツ局、情報制作局を経て、2022年7月から現職(以下クレジットのない写真はアイティメディア撮影)JNN Park!には、 北は青森から南は沖縄までの系列局が入居する。エントランスに入ると広いフリースペースがあり、各社のフロアの入り口には地元の名物や偉人などをデザインした「サイン」が掲げられている。
「目に見える最大の実益は、有形無形の『横の連携』が日常化したことにあります。別々の場所や違うフロアにオフィスを構えていると、系列局とはいえ別の会社ですから、用事がないのに雑談などをするのは意外と難しいのではないかと思います。でも、ここならエントランスを入ったところにフリースペースがありますので、会った人とあいさつをして、話をするのが当たり前になります。他社でもなく自社でもないエリアが、いい意味で交流を生んでいます」
ローカル局の東京支社には、営業や報道、編成などの担当者がいる。中でも多くの人数を占めるのが営業社員だ。東京を本社とする大手スポンサーからの広告収入は、ローカル局の収入の大きな割合を占めている。
担当者がスポンサーや広告会社に対して営業をする中で、CM出稿に関する新たな情報を他系列よりも早くキャッチすることは重要だ。例えば東北や九州など特定のエリアで新たなCMキャンペーンが企画された場合、いずれ別のエリアにも広がる可能性がある。
各エリアの動向をリアルタイムでいち早く共有し、競合する他の系列に先んじて動く。日常的な「雑談」が自然と「戦略会議」に変わるフリースペースは、今やJNNのインテリジェンス拠点として機能しているのだ。
横のつながりに加えて、もう一つの大きなメリットは、JNN Park!を営業力の強化に活用できることだ。
テレビCMには、主に自社で制作した番組の枠内に放送するタイムCMと、番組と番組の間にある枠に放送するスポットCMがある。全国には120局以上のテレビ局があり、どこで、どのくらいのCMを放送するのかについては、広告会社がスポンサーとの間に入って調整するという。そのためローカル局にとっては、スポンサーとともに、広告会社の担当者も重要な営業先になっているのだ。
ところが、コロナ禍をきっかけに広告会社もテレビ局もテレワークが進み、広告会社を訪問して担当者と話すことが難しくなった。広告会社でスポットCMを担当しているキーマンたちは、スポンサーとの交渉に加え、自社の営業部門との調整があるため多忙で、アポイントを取ること自体が難しい状況だった。そんな中、コロナ禍によって以前よりも営業がしづらくなったことは、系列局の大きな課題だった。
JNN以外の競合ローカル局も多く存在する中、営業社員は広告会社にアポが取れず、顔を覚えてもらうことすら難しい……。そこでJNN Park!では、大手広告会社との勉強会や懇親会を開き始めた。
「最大の目的は、互いの『顔』が見える関係を再構築することにあります。自己紹介を通じて『今、広告会社がローカル局に何を求めているのか』という本音のニーズをつかみ、ローカル局がどんな強みを持っているのかを知ってもらう。そうすることで、すれ違っているかもしれない『ニーズ』を合致させられます。広告会社との勉強会や懇親会は、定期的に続けていくつもりです。営業的には徐々に効いてくるのではないでしょうか」
横の連携には系列局同士だけではなく、TBSテレビと系列局との連携もある。JNN Park!がある赤坂パークビルは、TBS放送センターの隣に建つ。ビルの1階とTBSの北玄関までは徒歩30秒の近さだ。
TBS放送センターでは、JNN Park!の完成と同時期にリニューアルした食堂や、フリースペースを系列局も利用できるようにした。TBS12階の食堂はPark!と名付けられており、JNN Park!もそれに倣った形だ。
メリットは他にもある。系列局の中には、新卒採用や中途採用の面接を東京支社で実施している会社も多い。
「採用面での効果も、大きな狙いの一つです。学生さんにとっては、従来のオフィスで面接を受けるのと、このJNN Park!で受けるのとでは、ローカル局に対する印象も変わり、他の会社と比べてもメリットを感じやすくなるのではないでしょうか。どこも人材確保が難しくなっている中で、採用に少しでもプラスになればと考えています」
インターネット広告の台頭によって、テレビ業界全体の広告収入が減少し、中でもローカル局は厳しい状況に置かれている。
「系列局が利益を上げられなければ、結局のところJNN系列全体が強くなりません。JNNを強くすることが、このオフィス構築に取り組んだ目的です。自由度が高いオフィスにすることで、系列局同士の交流から営業の実務までさまざまな活用ができます。1000平米のうち約半分はフリースペースになっているので、系列局の皆さんには自社のスペースとともにフルに活用してもらいたいですね」
系列局が抱える切実な悩みを、空間設計によって構造的に解決したJNN Park!。業務の特性を踏まえて最適化されたオフィスの好例といえる。
田中圭太郎(たなか けいたろう)
1973年生まれ。早稲田大学第一文学部東洋哲学専修卒。大分放送を経て2016年4月からフリーランス。雑誌・webで大学問題、教育、環境、労働、経済、メディア、パラリンピック、大相撲など幅広いテーマで執筆。著書に『パラリンピックと日本 知られざる60年史』(集英社)、『ルポ 大学崩壊』(ちくま新書・筑摩書房)。HPはhttp://tanakakeitaro.link/
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