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TBSと地方局、「放送業界初」の狙いは? JNN系列地方局の約半数が東京支社をシェアオフィスに移転地方局のオフィス改革【前編】(1/5 ページ)

» 2021年04月19日 05時15分 公開
[田中圭太郎ITmedia]

 コロナ禍で東京都心にオフィスを構える企業の在宅勤務が進む中、港区赤坂に完成したシェアオフィスに、地方の放送局の東京支社が相次いで移転した。

phot JNN系列の地方局の東京支社が入居している「SPACES赤坂」の内観(以下撮影:山本宏樹)
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 移転しているのはTBSをキー局とするニュースネットワークであるジャパン・ニュース・ネットワーク(JNN)系列の地方局。3月に東北放送(仙台市)などの5社が業務を開始した。9月までに合わせて13社が移転する予定で、系列28社の約半数が集まることになる。シェアオフィスにはTBSのネットワーク部もサポートを兼ねて入居する。

 地方局の東京支社の多くは銀座周辺にオフィスを構えていた。だが在宅勤務が広がったことで出社人数が減り、これまでと同じ広さのオフィスを維持する必要がなくなった。シェアオフィスに入居することでコスト削減につながるメリットがある。さらに、TBSにとっては系列局が1つの拠点に集まることで、JNN系列全体の経営基盤強化や連携強化につながると見込む。

 こうしたシェアオフィスへの移転は、放送業界初だ。JNN系列のシェアオフィスの取り組みと狙いを、前後編の2回にわたってお伝えする。前編では、シェアオフィス入居の経緯と背景について地方局とTBSに取材した。

phot TBSをはじめ東北放送(仙台市)などの5社が「SPACES赤坂」で業務を開始する

TBSの呼びかけで13社がシェアオフィスに

 「どうもお疲れさまです。よく来てくださいました。また私もちょくちょく来させていただきます。よろしくお願いいたします」

 JNN系列の地方局の東京支社が入居している「SPACES赤坂」で業務がスタートしたばかりの3月23日、TBSホールディングス・TBSテレビの佐々木卓社長が同所を訪れ、系列各社の社員たちと気さくに言葉を交わしていた。4階から6階にある地方局の専有スペースを訪れたあと、3階の共有スペースも見学。立ち話をしながらねぎらいの言葉を掛けている。

phot 「SPACES赤坂」を訪れ、系列各社の社員たちと言葉を交わすTBSホールディングス・TBSテレビの佐々木卓社長
phot ソファー席の使用感を確かめる佐々木卓社長

 なぜ地方のテレビ局は東京支社のオフィスを赤坂のシェアオフィスに移転したのか。佐々木社長はその狙いを「JNNをさらに強い集団にするため」だと話す。佐々木社長自ら直接各社の幹部にシェアオフィスへの参加を呼びかけるほどの熱の入れようだ。

 「JNN28社はもちろん別々の会社ではありますが、あたかも一つの会社であるかのように経費を削減し、トップラインを伸ばし、利益を上げていく必要があると考えています。そうしていかなければ、これからのテレビ局は生き残れないのではないでしょうか。

 このシェアオフィスに入居することで東京支社のコストは削減されます。削減された分のお金を使って、新たな取り組みに使うこともできます。こういう拠点ができて、系列全体で1億円以上のコスト削減ができたことは、JNNがそれだけ強い集団になったということだと思っています」(佐々木社長)

phot 単独インタビューに応じるTBSホールディングス・TBSテレビの佐々木卓社長

 「SPACES赤坂」は首相官邸の外堀通りを挟んだ向かい側、東京メトロの溜池山王駅から徒歩2分の場所に立地する。TBS放送センターも徒歩で7分程度の距離だ。

phot 「SPACES赤坂」の外観

 「SPACES」はレンタルオフィス世界最大手「リージャス」のブランドの一つで、国内ではティーケーピーの子会社が運営している。「SPACES赤坂」は新築のビルの3階から6階に居を構えていて、3階には会議室やカフェなどを備えた共有スペースもあり、契約者は自由に使える。

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 実際に訪れてみると、JNN系列5社の東京支社がすでに業務を始めていた。入居企業一覧にあったのは東北放送(宮城県仙台市)、テレビ山梨(山梨県甲府市)、チューリップテレビ(富山県高岡市)、大分放送(大分県大分市)、山陰放送(鳥取県米子市)。それに、TBSの名前もあった。

 個別の専用オフィスは4階から6階にある。各社の面積はさまざまで、東京支社のスタッフ全員分の席を確保している局もあれば、スタッフの人数よりも少ない席しか置いていない局もある。4階には各局のロッカーが並ぶ部屋もあった。専有スペースに入りきらなかった荷物を置くスペースとしてTBSが用意したものだ。

 地方局の東京支社は、主に営業部門と報道・編成部門のスタッフが勤務する。テレビとラジオの兼営局には、ラジオのスタッフもいる。その中でも大半を占めるのはテレビの営業スタッフだ。大手スポンサーや広告代理店を訪問して、営業活動を展開するのが以前の働き方だった。しかし、新型コロナの感染拡大によって在宅勤務が業界全体に広がり、東京支社に全員が一度に出社することはなくなった。

 そこでJNN系列で持ち上がったのが、東京支社のシェアオフィス化だった。TBSが各社に入居を呼びかけると、13社が9月までに東京支社の移転を決めた。

 ただ、いくら系列局とはいえ、独立した経営の別々の会社だ。テレビの番組と番組の間に放送されるスポットCMの営業活動は、同じ放送エリアの他系列の局とシェア争いをするので競合はしないものの、スポンサーの予算を取り合う面では互いにライバル関係でもある。にもかかわらず、これだけ早いスピードでシェアオフィスへの入居が決まったのは、地方局とTBSそれぞれに思惑があったからだ。

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