みんなで大家さんを巡る集団訴訟の原告は、勝った。3件の判決はいずれも契約終了に基づく出資金返還請求で、返還義務そのものは会社側もほぼ争わず、裁判所は「当事者間に争いがない」「請求はいずれも理由がある」として支払いを命じた。
だが判決が確定させたのは「返してもらう権利」にすぎない。みんなで大家さんの事例を“企業の学び”にするなら、企業で債権管理を行うときに本当に問うべきは「裁判に勝つ方法」や「全額回収する方法」ではないといえる。
同じ構図は、企業間取引でも繰り返されている。直近の例が、2026年7月に破産したクレジットカード決済代行の全東信(大阪市中央区)だ。
この件も、みんなで大家さんの事例と同じく前兆はあった。2024年1月には他人名義で加盟店契約を結んだ疑いで社員が逮捕され、業界内では信用不安が広がっていた。この時に異変を感じた加盟店が、別の事業者に切り替える動きがあれば、負債総額約1151億円にも上る2026年最大級の大型倒産には至らなかっただろう。
もう一つ、時間の長さを示す例がアニメ制作会社ガイナックスだ。2016年、版権使用料約1億円の滞納を巡ってアニメ制作会社カラーが提訴し、翌年に支払いを命じる判決が確定した。だが会社はその後も存続し、破産申し立てに至ったのは2024年5月。判決から7年がたっていた。破産の直接のきっかけは、債権回収会社から債権請求訴訟を起こされたことである。カラーはガイナックスの商標と称号を取得して管理する形に落ち着いたが、現金1億円はついに返ってくることがなかった。
企業の債権回収に当たって考えるべきことは3つに収束する。
まず「前兆は必ず先に出ている」ということだ。手数料や入金条件の突然の変更、キーパーソンの逮捕、監督官庁による処分――それが出た時点で与信枠を絞ったり、契約関係を見直したりした者が、結果として最も多くの債権を回収しているといえる。
そして「判決は回収を保証しない」ということを認識すべきだ。勝訴判決を持ったまま7年待つことは、実際に起こる。
最後に「現金で戻らないリスク」があるのであれば、あらかじめ現金以外で取れる担保を取るべきである。実物資産がなければ、ガイナックスの事例のような知的財産権も選択肢となる。
みんなで大家さんの事例を債権の回収というテーマで俯瞰(ふかん)すると、不動産業界の外でも発生し得る問題だと分かる。これを機に取引先に対してどのような債権を持っているのか、リスクへの対応方針は万全か、それぞれ棚卸ししてみてはいかがだろうか。
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