“何でもLLM”では生産性を上げられない フィジカルAIの「分業」に学ぶ、AI導入のヒント(2/2 ページ)

» 2026年09月29日 11時19分 公開
[古田拓也,ITmedia]
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センサーで処理できる仕事は残る

 ロボットの内部がこうした分業で成り立っているという事実は、ロボットを使う側の企業にもそのまま当てはまる。

 形や大きさが決まった物を、決まった場所から決まった場所へ大量に動かす。バーコードや重量、位置で判別できる。こうした作業は、センサーと従来型の制御で十分に高速かつ正確にこなせる。判断の過程も説明しやすく、1件当たりの処理コストも低い。ここにLLMなどの大規模なAIモデルを挟めば、処理は遅くなり、コストは上がることになる。

一部だけAIにしても、生産性は上がらない

 もう一つ、フィジカルAIの導入で見落とされがちな点がある。工程の一部だけをAI化しても、全体の処理量(スループット)はほとんど変わらないということだ。

 工場も倉庫も店舗も、複数の工程がつながっている。全体の速度を決めるのは、最も遅い工程だ。

 検品だけをAIで10倍速くしても、その前後の搬送や梱包が人手のままなら、仕掛かり品が検品の前に積み上がるだけで、出荷量は増えない。筆者がAI導入の支援で繰り返し目にしてきたのも、この構図である。個別の工程で「AIで作業時間が半分になった」という成果が出ても、組織全体の生産性の数字は動かないのだ。

 歴史にも同様の例がある。経済史家のポール・デービッドは1990年の論文で、米国の工場に電動モーターが普及した際、生産性の上昇が本格化したのは1919〜29年だったと指摘した。

 1本の動力軸で多数の機械を動かす構造から、機械ごとにモーターを付ける方式に移り、平屋建てへの建て替えや資材の流れの見直しなど、工場の再設計が進み、初めて生産性が伸びたという。

 同じことは物流の現場でも起きている。Amazonは2023年、在庫をコンテナ単位で管理し、移動ロボットがコンテナを運び、従業員は太ももから胸の高さの間に設けられた作業台で作業する在庫システムを導入した。

 同社は、在庫の識別と保管を最大75%速め、注文の処理時間を最大25%短縮できるとしている。ロボットを既存の倉庫に足したのではなく、倉庫の流れそのものを作り替えて初めて生産性が上がったのである。

フィジカルAIの「選び方」よりも「設計」を問うべき

 ロボットを使う側の企業にとっての問いは、どのロボットやAIを買うかではない。センサーと従来型の制御でさばける仕事と、AIでなければ対応できない例外と、人に戻す仕事を切り分ける。そのうえで、工程の流れそのものをAIと人の分担に合わせて組み直す。

 ロボットの中で、AIとセンサーと制御が分業しているように、工場や店舗も分業を前提に設計し直したとき、フィジカルAIは初めて生産性向上に資するのだ。

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