一方、ライブドアの買い手となるSBIにとって、メディア利用者がもたらすメリットは全く異なってくる。
SBI証券は2023年9月30日発注分より、オンラインでの国内株式売買手数料を無料化する「ゼロ革命」を開始した。アクティブトレーダーにとどまらず、若年層や資産形成層をはじめとするあらゆる顧客の投資ハードルを下げることを目的としている。
売買手数料を無料化した証券会社は、単発の取引手数料ではなく、「顧客数」と「提供するサービスの多様さ」で収益を得るモデルへ転換した。開設した口座を軸に、投資信託やFX、系列銀行といった自社経済圏のサービスをいかに複合的に利用してもらえるかが、収益性を左右する勝負どころとなっている。
ビジネスモデルが変わりつつある近年のリテール証券業界においては、新規顧客をどれだけ安く獲得できるかが焦点となる。
筆者も過去にスマホ証券の立ち上げに携わったが、システム投資と並び、口座開設に至る広告費などの「顧客獲得費用」は事業計画を左右する重要な指標の1つだった。
しかも「ゼロ革命」がターゲットとする若年層や資産形成層には、未経験者が多い。ミンカブ自身が既存の金融メディアを「投資家層向け」と位置付けていた通り、投資未経験層には従来の金融メディアの言葉が届きにくいのだ。その点、ニュースやブログを日常的に閲覧する生活者層を抱えるライブドアは、証券サービスの潜在顧客を開拓する媒体として極めて魅力的に映る。
ここに、今回の取引の核心がある。
広告で稼ぐメディア企業にとって、ライブドアの価値は「利用者数×広告単価」で決まる。ところが金融商品を持つSBIにとっては、「広告費をかけずに口座開設までつなげられる人数」と「グループ商品への送客」で測れる。同じ利用者でも、持ち主が変われば1人当たりの価値が変わるのだ。
SBIは、こうしたメディアなどを通じた顧客接点の獲得を重要なグループ戦略として位置付けている。新たに構築する「ネオメディア生態系」を既存の金融生態系などと融合させ、国内外でグループの顧客基盤を劇的に拡大することを戦略目標として掲げているのだ。
2026年1月には、映画やドラマ、書籍出版を手掛けるカルチュア・エンタテインメント グループとも資本業務提携に向けた基本合意を結んでいる。ライブドアの取得は、この流れの延長線上にある。
一方、ミンカブが保有する金融データには新たな活用の道が提示された。
3社による業務提携では、営業支援AIやコールセンターでのAI活用に加え、金融データや顧客接点を生かした投資家向け情報提供、IR支援などを共同で企画・開発する。役割分担として、NTTデータが基盤の設計・構築と金融機関への横展開、SBIが実証・導入の場の提供、ミンカブが金融データやコンテンツの提供を担う。
金融機関の業務にAIを組み込む上では、データの正確性に加え、権利関係がクリアに整理されていることが重要な要素となるためだ。
メディアは顧客を持つSBIへ、データは金融機関とつながるNTTデータへ。それぞれの資産が、最も生かせる相手と組んだ格好だ。
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