まず「削減時間は人件費を減らす数字ではない」という認識を社内ですり合わせてみましょう。その上で、AI導入の目的を「人件費の削減」ではないところに置くことが重要です。
削減時間は、あくまで社内にAIが根付いたかを見る「定着」の指標と位置付けるのが安全です。一方で、経営層に示す成果としては「同じ人員でどれだけ多くの仕事を、どれだけ速く回せるようになったか」、つまり組織の「スループット」(時間当たりの処理能力)で測ると良いでしょう。
役員の指摘はもっともだ。毎月数千時間を約2000人で割れば、1人あたりの削減時間は1日数分から十数分ほどになる。
細切れに浮いた時間は、別のタスクや確認待ちの時間に費やされてしまい、経営数字には届かない。時給換算して「コスト削減」のように見せたことが、問い返される原因になったのではないだろうか。
AI利用による削減時間は「第1段階の指標」として役に立つ。米Microsoftの公式ドキュメント(2026年8月更新)によると、Copilotダッシュボードの「Copilot アシスト時間」は、過去28日間に従業員がCopilotの支援を受けた合計時間の推定値である。
これはCopilotを使っている従業員のアクションと、同社の調査から導いた仮定の削減時間を基に計算される。例えば検索や要約、作成(文章の下書きなど)のアクションには、1回あたり6分の係数が置かれている。主に操作の回数から推計するため、利用の定着を見るのに向いている。
一方、経営の数字を説明するには「第2段階の物差し」が要る。例えば、商品の見積もりを事業部が出すのに通常3営業日ほどかかるとしたら、営業部の作業時間を仮に100分減らしても、顧客にとって3営業日待たされる部分は変わらない。
ワークフローを俯瞰(ふかん)的に見た上で「価値が生まれる量と速さ」を総合的に評価するために重要なのが、2段階目の指標であるスループットだ。
見積もりの例でいえば、営業担当者が個人で手掛ける100分の作業を、AIによって1分に短縮すれば「作業時間99%削減」したことになる。
しかし、3営業日の確認待ちを含めると、全体のスループットは1540分から1441分へ、約6.4%しか縮まっていないということになる。
スループットを向上させるには、AIを取り入れた業務の工程を依頼から完了まで書き出し、各工程のミクロな工数と、成果物を出すまでに必要なマクロの時間をそれぞれ明らかにしておく必要がある。
製造業なら、ミクロの例としては「図面1枚当たりの作成工数」、マクロの例としては「設計部門の受注から出図までのリードタイム」といったものが候補になるだろう。
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