私は普段テント暮らしをしながら単独活動するため、フィールドでの食生活は至って簡素である。食材は現場に入る前に町で買い込み、車に積んでいく。ごくまれに現地調達する場合もあるが、これはかなり例外的なケース。車に冷蔵庫を積んでいるわけでもないため、生鮮食料品は持って行かない。また、未舗装のデコボコ道を走ることが多く、車内の気温が40度を越えることも珍しくないので、食料の種類はそのような状況でも日持ちするものに限定される。
1日の食事を順番に紹介しよう。まずは朝食。自然写真のゴールデンタイムは日の出直後と日の入り直前なので、太陽が顔を出す前に撮影準備を完了しておく必要がある。従って朝食にかけられる時間はあまりない。寝袋からはい出したら、すぐに熱いコーヒーを入れ、インスタントのオートミールをかき込む。
昼食に関しては、決まったメニューが存在しない。丸一日車で移動しながら撮影をする日は、車内でスナック菓子や、ビルトンという南アフリカ版ビーフジャーキーをつまんでごまかす。徒歩での撮影の場合、昼間は強烈な日差しを避けるためキャンプに戻るが、ダルいので結局調理はあまりせず、ラスクや缶詰に頼ってしまうことが多い。
一日の食事の中で最もボリュームがあるのは夜だ。ただし、用意できるのは水と燃料(ガス)そして時間の3つが節約できるものに限られる。これらの条件を全てクリアしているのがクスクスだ。これは主にモロッコやチュニジアなど、アフリカ北西部で主食とされる細かな粒状のパスタで、お湯でもどして食べる。非常に手早く準備できる上に、わずかな量の熱湯と油、塩さえあればよいので大変重宝する。これにチャカラカと呼ばれる野菜の缶詰をぶっかけるのがフィールド・ディナーの定番だ。
日本の偉大な発明品であるインスタントラーメンも捨て難い。クスクス同様、短時間で用意できる上に、沸かした湯がそのままスープになるので無駄が非常に少ないのだ。日が沈むといきなり寒くなる夜の砂漠で食べるラーメンは最高だ。ちなみに南アフリカの都市部にある大型スーパーでは、主にマレーシア産のインスタントラーメンが非常に安価で手に入る。
では、米はどうだろう。日本人ならば白いご飯が恋しくならないはずはない。ところが、白米というヤツは前述の水と燃料、そして時間の3項目全てにおいて落第点をたたき出す。
日本式に準備するとなると、まず米をとがねばならない。これにより、結構な量の水を使う。次に加熱方法。うまい飯を炊く極意は「始めちょろちょろ中ぱっぱ、赤子泣くともフタ取るな」であるが、これには時間をしっかりかけて加熱しろという意味合いが含まれている。加熱時間が長いということは、それだけガスをたくさん消費するわけで、これはいただけない。長期のフィールドワークでは、途中でガス切れを起こすと非常に面倒なことになるからだ。しかも、疲れて腹が減っている時に、のんびりと飯炊きをする精神的余裕はない。
さらに、食い終わった後にも問題が待ち構えている。アルミやチタンのコッヘルで米を炊くと、かなりの確率で底に焦げ付きが発生し、これを洗い落とすのにまたしても水を浪費するのだ。洗い物が大嫌いな私にとって、これは二重の意味で腹立たしい。
日本のアウトドアショップなどで販売されている、登山用のアルファ米はお湯を注ぐだけで食べられるが、高価な上、かさ張るので撮影地での日数分を日本から持って行くのは非現実的だ。
食事も旅の楽しみのひとつとは言うが、単独でフィールドに出ている時は、いかに腹の隙間を手っ取り早く埋めるかがポイントになってくる。それと同時に、エネルギーと水を浪費しないように気を付ける。これがアフリカの乾燥地帯で撮影をする際の「食」の選択にまつわる課題である。
山形豪(やまがた ごう) 1974年、群馬県生まれ。少年時代を中米グアテマラ、西アフリカのブルキナファソ、トーゴで過ごす。国際基督教大学高校を卒業後、東アフリカのタンザニアに渡り自然写真を撮り始める。イギリス、イーストアングリア大学開発学部卒業。帰国後、フリーの写真家となる。以来、南部アフリカやインドで野生動物、風景、人物など多彩な被写体を追い続けながら、サファリツアーの撮影ガイドとしても活動している。オフィシャルサイトはGoYamagata.comこちら
【お知らせ】山形氏の新著として、地球の歩き方GemStoneシリーズから「南アフリカ自然紀行・野生動物とサファリの魅力」と題したガイドブックが出版されました。南アフリカの自然を紹介する、写真中心のビジュアルガイドです(ダイヤモンド社刊)
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