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「もう一度“PEN”を見直して、大胆に」――受け継がれるオリンパスの“PENイズム”(後編)(3/3 ページ)

» 2014年07月10日 07時00分 公開
[野村シンヤ,ITmedia]
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━━そのほかPENならではのコダワリいったものはありますでしょうか?

片岡氏: E-P1でぜひ見て頂きたいのはトップカバーですね。ちょっと分かりにくいのですが、ここの部分(E-P1の左肩にあるモードダイヤルのくぼみ)は横から見ると厚みがあるように見えますが、金属のプレス加工部品なので部品自体の厚さは1ミリないのです。

photo E-P1のトップカバー。撮影モードダイヤル部分は穴を開けるだけでなく、絞り込み加工をすることで独自のデザインを忠実に再現

 普通、このような部品配置をするときには丸く穴を開けてパーツをはめるものですが、銀塩PEN Fのイメージを出したいので、落ちくぼんだ先にダイヤルがあるようにしたいと要望を出したら生産の方から「絶対できない」と言われてしまいまして……。

 「エッジが気になるならパーツをはめればいいし、中を凸にすればエッジは当たらないからデザインを変えればいいだろう」という声もありましたが、どうしてもと思い、生産部門へ「できるできないかじゃなくて、どうやったらできるかだけ言ってくれ」と無理をお願いしました。

 あともう1つ、ボディ背面上部にある鏡面仕上げのパーツですね。ここの平面というか平滑性というか、水面のようなシャープな仕上げにしたいと思っていました。

photo E-P1背面上部の鏡面仕上げパーツ 金属をバフ研磨して上品な光沢感を出し、レーザーマーキングでスペシャリティを表現

 普通こうした小さなパーツで鏡面仕上げをする際にはプラスチック部品にメッキ処理をする場合が多いのですが、それだと表面にうねりが出ることが多く、水面のようなシャープさは演出できないのです。なので部品素材を金属にして、バフ研磨でピカピカに磨いてくれと。さらに「OLYMPUS PEN Since1959 E-P1」の文字をレーザー刻印してくれと要望を出しました。

 そうしたら当時としては高価な部品となってしまい、「飾りになんでこんな高いコストかけるんだ!」と強い反対を受けたんですが、いやそんな問題じゃないと押し切りました。PENのコンセプトを実現するためには、意図したデザインをどれだけ忠実に実現できるが大切なんだ、と。

 通常のカメラづくりですと設計や生産も考慮しますが、PENについてはデザインとコンセプトの具現化を最優先しました。それだけに製品化へこぎ着けるまでにはかなり苦労をした記憶がありますね。

高橋氏: ボディ外装の金属パーツにも一苦労ありましたね。E-P1のボディは素材感の組み合わせによる美しさを狙って、アルマイト処理したアルミとヘアライン加工したステンレスを組み合わせているのですが、普通ならコストや生産を考慮して、どちらかでそろえるものです。

 で、そこまで頑張りながら、色を塗ったホワイトモデルを用意してしまうという(笑)。

 当時(E-P1は2009年6月発表)はホワイトボディのカメラが少なかったので、ホワイトを用意すること自体に社内のハードルが高かったですし、せっかくのヘアライン加工を台無しにするかのごとく塗装してしまうのは何事かという声もありまして、かなりもめましたね。ですが結果的にE-P1のホワイトモデルは好評でしたので、無理してお願いしてよかったかなと思っています

片岡氏: 結局、E-P1はシルバーとホワイトの生産が最終的にほぼ半々でしたね。

━━初代から5年が過ぎ、いろいろな人がPENを手にしています。デザインという側面でユーザーなど周囲から影響を受けることはありますか。

高橋氏: デザインというのは、考えを見える形にする手法・道具なので、大事なのはその考えをどう表現するのかという事ですね。PENについて誤解を恐れずに言えば、相手ありきではなく「好きな人に好かれる」存在でありたいと思っています。

 例を出すとしたらハーレー・ダビッドソンですね。ハーレーが好きな人は年齢や性別に関係なく、ハーレーが好きですよね。で、ハーレーが好きな人はファッションにも共通項があったり、ハーレーに乗りたいために免許を取る若い女性がいたりと、影響力も大きいですよね。PENもそういった存在を目指したいと思っています。

photo

━━「PEN」というスタイル、ブランドの確立ですね。

高橋氏: ですがPENはカメラなので、手にして頂いた方にはPENというカメラを気に入っていただいて、たくさんの写真を撮ってもらいたいという気持ちの方が強いです。

 私は写真に無駄な1枚はないと思っています。例えば今ここでパシャっと写真を撮って2、3日後に見てもつまらないと思うのですが、2〜3年後に見たら、ああこんなこともあったな撮っておいて良かった、10年後には驚きの1枚になっているかもしれないですよね。たったそれだけのものでもそう思えるので、やはり写真っていいなと。


 簡単にキレイな写真が撮れて、軽くコンパクト。それでいてエレガントなたたずまい。新しいスタイルを確立させるために登場したPENは、それこそ開発やデザイン、それに携わった人達が苦難を乗り越えた努力の結晶とも言える。

 本文中では紹介できなかったが、当時、オリンパスイメージング SLR事業本部長であった小川治男氏(現・オリンパスイメージング代表取締役社長)がPENの発表会の際に「キレイで簡単で小さくて上品質を前面に出せ」「間違ってもスペックを先に語るな!」と広報に釘を刺していたというエピソードも新しいスタイルのカメラなのだということを物語っている。

 また、大人気モデルとなった今でも初期のコンセプトはしっかりと継承されており、新たな提案を盛り込んで進化させて行きたいという姿勢はカメラメーカーとしての矜持を感じさせられた。OM-Dとともに同社のデジカメを今後も引っ張っていくPEN、次期モデルにも期待したいと感じさせられた。

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