F1.2という明るさと美しいボケ味で、ポートレートを中心に撮影するフォトグラファーに支持を得ている富士フイルムの「XF56mmF1.2 R」。これにアポダイゼーションフィルター(APDフィルター)を搭載し、さらにボケ味を重視したモデルが登場した。その名はフジノンレンズ「XF56mmF1.2 R APD」。アポダイゼーションフィルターとは、レンズの中心部から周辺部に向かって光の透過率をゆるやかに減少させたフィルターのことで、これを搭載することによってより柔らかく美しいボケ味と立体的な表現を可能にしている。今回は「FUJIFILM X-T1」にこのレンズを装着して撮影してみた。
レンズの外観はXF56mmF1.2 Rとほぼ変わらない。唯一違うのはAPDフィルターによって減光される実質的な絞り値が、絞りリングのマウント側に併記されている点だ。35ミリフィルム換算でおよそ84ミリのこのレンズは、ズッシリとした重量感で「いかにも写りそう」というというルックスと存在感である。なおこのレンズは、世界初のAPDフィルター搭載でのオートフォーカスレンズとなっている。
ベースモデルとなったXF56mmF1.2 R同様、絞り開放から抜群のキレ味を見せるXF56mmF1.2 R APD。このレンズの特長であるF1.2開放付近で最大となるAPDフィルターの味わいは何ともいえない描写だ。例えるならば、Adobe Photoshop でフォーカスが合った部分とそれ以外を別のレイヤーに分け、それ以外のレイヤーにとても上品で美しく細かいガウスフィルターをかけたような感じだ。立体感がググッと引き立ち、背景は空間に自然に溶け込んでいくような印象を受ける。もちろん被写体と背景によって仕上がりは異なってくるが、このレンズはやはりポートレートで使い込んでみたい一本であろう。Xマウントユーザーは56mmという焦点距離で頭を悩ませることになりそうだ。
落ち葉の絨毯の上にたたずむモデル。ベースモデルのXF56mmF1.2 RとAPDモデルとで撮り比べてみた。モデルの立体感と、背景の落ち葉のボケ具合が違うのがお分かりいただけるだろうか。APDレンズはよりソフトかつシルキーで、どことなく丸みのある描写ではないだろうか。
ビルの谷間で冬の反射光を浴びる自転車。F1.2絞り開放で対向車線からシューティング。35ミリフィルム換算で84ミリ相当という焦点距離は、道の向こう側を撮影するのに適度な長さだ。自転車と背景の壁との距離はさほどないが、APDの影響か壁の描写が優しく感じる。
このAPDレンズの描写は面白い。フォーカスした位置にもよるが、ある距離からボケ具合がグッと深まる印象だ。ローカル線のプラットホームをローアングルで撮影したカットだが、ボケた空間が何かを主張してくるようで面白いカットになった。
このレンズのAPDフィルター効果は絞り開放時がマックスとなるが、常用レンズとしてももちろん普通に使用できる。絞りリングの表記を見れば分かるとおり、F5.6まで絞るとベースレンズと同じ描写となる。それよりも明るいチョイ絞りでなら柔らかい輪郭のボケを楽しめる。
ベースとなるXF56mmF1.2 Rの素性が素晴らしいので、ポートレート以外にスナップや風景撮影でもこのレンズは活躍する。最短撮影距離は0.7メートルなのでなにかと重宝しそうだ。自転車とガードレールの冷たい金属の質感が伝わってくる。背景のボケ具合にAPDフィルターの効果がよく出ている。
大きな瞳と艶やかな肌の質感描写が富士フイルム製品らしい仕上がりだ。そこから前髪〜背景にかけてのボケていく様が心地よい。背景の灌木がうるさいボケになるかもしれないと思ったが、予想を裏切ってキレイなボケ具合になってくれた。
APDフィルターと、FUJIFILM X-T1のフィルムシミュレーションとの相性も抜群だ。このカットではモノクロームモードを選んで、光る海をバックにモデルを撮影。瞳のシャープ感と肌の質感、それと背景の絶妙なボケ味とトーンが見事にマッチしたカットとなった。
ポートレートでのバストアップやフェイスのアップから、ちょっと引いてのロングショットまで実に使いでのあるレンズだと感じた。F8まで絞ると描写性能はググッと高まり、色再現とコントラストともに文句のない写りとなる。
APDフィルターは絞り開放でその効果が最高潮となるが、晴天の日中では明るすぎてシャッタースピードを最高に設定しても絞りを開けることができないことがある。そんな時のためにこのレンズにはNDフィルターが同梱されているのが嬉しい。これを装着すれば3段分絞りを開くことができるようになる。この美しいボケはとても魅力的なので、ベースレンズを所有している人も、このAPDレンズに乗り換え、もしくは買い増しを考えてみるのもいいかもしれない。
(編注:本記事では一般的な撮影状態での利用を念頭に置いているため、人物撮影にレフ版などは利用しておりません)
(モデル:石川彩夏 オスカープロモーション)
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