本大好き司書メイドの好感度を上げ、年に一度のデート権を得るべく繰り広げられるメイドたちのラブアタック。今日はサヤからの紹介です。
ツクツクホウシの鳴く声に晩夏の近づきを感じるこの街に、メイドが営む私設図書館がありました。
そこには書架を守る司書メイドがいます。ほんわりおっとりした司書メイド ミソノに、淡い思いを抱くメイドもいるようです。
彼女の好感度を上げようと、今日もお気に入りの1冊を持って、書架にメイドがやってきます。
この本はもう私がおすすめするまでもないと思うんですが……。
谷崎潤一郎さんの『刺青』。有名な作品ね。
そう、谷崎潤一郎の『刺青』! たった10ページと少しの作品なのに、強烈に印象に残っています。毒々しいほど鮮やかで美しい花が咲く様を見せつけられたようで、忘れられません。
確か谷崎さん、これがデビュー作でしたよね。彫り物をする若者と、美しき娘の物語……。
刺青によって、「娘」が「女」へと変身を遂(と)げるのが本当にドラマティックですよね。背中に彫られた女郎蜘蛛の刺青が完成することによって「女」が目覚める。女郎蜘蛛のメスって鮮やかで美しく(私にはそうとは思えませんが……)オスよりずっと大きいんですよ。しかもオスのことを食べてしまうこともあるんだとか。『刺青』の「娘」も女郎蜘蛛のように美しく、男を食い物にしてしまうような「女」になるんですね。
この主人公くんは、絡めとられるのを望んでる節があるわよねぇ。
刺青師・清吉の年来の宿願は「光輝ある美女の肌を得て、それへ己れの魂を刺り込む事」でしたが、自分の魂を彫り込むことで男を食い物にしてしまうような「女」を作りたい、その「女」に食われて肥やしになりたいというのが清吉の願いだったんでしょうね。最初は男が肌に針を刺されて苦しむ様子を見て快楽を覚えるなんて、清吉はとんだサディストだなーと思っていました。でも「娘」の背に刺青を彫って、自分で自分の上に君臨するご主人様の「女」を作ってしまうなんて、清吉は究極のマゾヒストですね。
さっきから「女」とか「娘」とかずいぶん強調してるけど、違いがあるの?
そうなんです! いいことに気付いてくれました! 『刺青』では「娘」と「女」がきれいに使い分けられているんですよ。「娘」はただ単に刺青を入れられる人の3人称として、「女」は女郎蜘蛛のように男性の上に君臨する美女という意味を持って使われています。刺青が完成に近づくにつれて、というよりは「娘」の意識が「女」のものへと変わっていくに従って、表現も「娘」から「女」に変わっていくんですよ。
文体の端々にまで、神経が行き届いている美しさを感じるわね……。
清吉は駕籠(かご)からのぞいた足だけで「女」を見初めます。それはたぶん「娘」の中にある「女」の素質が無意識のうちに出ていたからではないでしょうか。だから足だけで「娘」の素質を見抜いた。足って頭、意識から一番遠いですからね。
本能が爪先に滲(にじ)んでいたのかしら……うーん、色っぽいわ!
『刺青』は、さっと読んでもドラマティックで面白いし、じっくり細かい部分を読んでも巧みで面白い。さすがは文豪・谷崎だなぁと感心しきりです。
本への愛情、オススメの仕方が上手だとミソノの好感度アップ! それぞれミソノの心を占めている割合は……?
エリス:38% レイラ:73% サヤ:76%
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