コンテンツビジネスの未来をキープレイヤーが大激論

日本SGIが開催した「SiliconLIVE! Forum 2006」の中では、ソニー、キヤノンマーケティングジャパン、NEC、日本SGIなどコンテンツ時代でリーダーとなるであろう企業が、現在感じていることを赤裸々に語った。

» 2006年06月30日 16時27分 公開
[西尾泰三,ITmedia]

 「商品の生産に携わった人たちの“魂”をどう消費者に伝えるか。それができれなければ価格.comでの値段比較に終始してしまう。価格だけで魅力が決まってしまうとすれば、製造業の未来はない」――日本SGIが6月28日に開催した「SiliconLIVE! Forum 2006」で、同社の代表取締役社長CEO、和泉法夫氏は上記のように話し、軽く見られがちなコンテンツの重要性を説いた。

和泉氏 「コンテンツが主役の時代では真のダイレクトマーケティングが始まる」と和泉氏

 かねてからコンテンツの重要性について訴えてきた日本SGIだが、ここに来て、ソニー、キヤノンマーケティングジャパン、野村證券グループを割当先とする第三者割当増資も行うなど、体制作りを進める一方、サイレックス・メディア(Silex Media)の設立など、グローバルでの展開を見据えた戦略を採っていることを改めて説明した。

 また、米SGIについても触れた。米SGIに対する日本SGIのスタンスは、こちらの記事に詳しいが、心配することは何もないと話し、今回の増資によって、「(米SGIの)自社株買い取りも検討している。もしかすると米SGIのソリューションの部署を日本SGIがテイクオーバーするかもしれない」と仰天発言も飛び出した。

 さらに、これからは、企業自身が自社のコンテンツを魅力ある情報として伝えていくことが重要になると話し、製造業でよく言われる「見せる化」が「視せる化」になると話す。企業そのものが放送局になる時代が到来したことを訴え、すでに、Webの世界でもこの動きが見られると、auのLISMOや、トヨタのbBといったサイトを引き合いに出し、「Webは作ればいいという時代ではない。Webの世界にCMの技術が連携し、垂涎の的となるコンテンツが誕生している」と述べた。

 和泉氏は以前、「Web3.0の世界」と述べたことがあるが(関連記事)、これはとりもなおさず、コンテンツが主役の時代であると話す。「Web3.0ではあらゆるものがインターネットにつながり、その操作性も格段に進化するだろう。つまり、現状のWeb2.0ではまだ残っているデジタルデバイドから解放され、よりユーザーが爆発的に増えることになる」(和泉氏)。

 放送と通信の融合が叫ばれる中、日本SGIはこの両分野が分かる唯一の企業であると和泉氏、これまで培ってきたテクノロジーやノウハウを体系化した「SiliconLIVE!」で、新しい時代の先頭を走っていきたいと語った。

情報ありきの流通形態がこれからの標準に?

 その後行われたパネルディスカッションでは、「もの言う株主に囲まれて……」と笑う和泉氏のほか、日本SGIの株主であるNEC、ソニー、キヤノンマーケティングジャパンからそれぞれ登壇しコンテンツが主役の時代について議論した。

左から花谷氏、永田氏、都筑氏、和泉氏

 コーディネーターを務めた東京大学国際・産学共同研究センターの安田浩教授が議論の燃料として投下したのは次のような内容だ。

議論のテーマ

 議論はクリエーター不足と著作権管理の問題について深く掘り下げられた格好となった。

 ソニーで放送業界向けのビジネスを手掛けるB&P事業本部副本部長の花谷慎二氏は、放送ビジネスで進む多チャンネル化はコンテンツの絶対的な不足を招いていると指摘、その根底には、コンテンツ作成に掛かるコストだけでなく、クリエイターの数が不足していることが挙げられると話す。同氏は続けて、あらゆるデータは本来付加価値を生むコンテンツであるが、ものづくりの現場においては、そうしたコンテンツがそれぞれのファンクションで閉じてしまっており、活用されていないと指摘する。「コンテンツは単なるデータなのか? 利益を生むものなのか? を考えれば、当然後者であり、そうしたエバンジャライズを行っていく必要がある」(花谷氏)。

 キヤノンマーケティングジャパンの常務取締役でコミュニケーション部門を担当する永田圭司氏も、デジタルコンテンツの世界はまだ入り口を開けただけであり、そこに携わる人、特にクリエイティブディレクターの絶対数が不足しているとし、そこに対して教育や育成という観点で臨む必要性を説いた。

 一方、NECの執行役員である都筑一雄氏は、「コンテンツは流通してこそ価値がある。しかし、あらゆるデータがコンテンツとして流通すると、著作権の問題が浮上してくることになる」と述べ、この問題についてNECでは現在、コラボレーティブ・ワークスペースという情報管理の仕組みを研究開発していると話した。また、都筑氏は、企業内で埋もれているコンテンツとして音声を挙げた。「ビジネスにおいて重要な意志決定はすべて音声で行われているが、それは雲散霧消してしまっている。これを集めることが重要」(都筑氏)。また、コンテンツ作りを促進するには、コンテンツを整理するとともに検索しやすくする必要があると話している。

 そして気になる「世界と渡り合えるか」というテーマについては、やや悲観的な発言が多かった。永田氏は「写真などのイメージはユニバーサル言語と言えるため、それであれば……」と話すが、花谷氏は「中国やインドといった国々では、自国民の絶対数が多いため、例えば放送フォーマット1つ見ても、その国だけで閉じたものを独自に作ったとしても十分にペイできてしまう。消費という観点で見ると、世界と勝負できるかといった議論の前に、生き残ることをまず考えなければならない」と警鐘を鳴らす。

 日本発でコンテンツを輸出できるかという点については、アニメなど一部有力なコンテンツはあれど、やはり言語の壁が阻害要因になってくるのではないかという点で一致した意見が出た。

 また、議論の中では、メタデータの重要性についても取り上げられた。安田教授は、「今は、レストランへ行くのにも、その空き情報を確認して行く時代になっている。メタデータの見せ方が重要になってきているのではないかと問題を提起した。

 これに対し都筑氏は、先に情報ありきの流通形態になってきていると同意、今後、モビリティも含めたネットワーク基盤がますます拡大すれば、よりこの傾向は強まるだろうとした。しかし、現状ではメタデータを定義することの難しさが存在していると花谷氏が話し、その体系化の必要性を説いた。和泉氏は、ものづくりの段階からメタデータを意識して作業を進めることが重要と指摘している。


 結局のところ、コンテンツが主役の世界というのは確かに到来した、または近い将来に到来するというのは各人が同意するものの、人材育成からメタデータまで、いずれも始まったばかりであるというのが共通した見方だった。とは言え和泉氏は、「コンテンツが主役の時代は、企業がそれを認識した時点で一気にやってくる。そのためにも、現在自分自身が持っているコンテンツをきちんと管理していく必要がある」と強調した。

 「百聞は一見にしかず」――この言葉こそがコンテンツ時代の本質を言い当てているのかもしれない。安田氏は和泉氏が言う「魅せる化」は好きではないと笑う。理由は、「魅」という文字は鬼という文字が入っていることからも分かるように、「鬼=よく分からないもの・不思議なもの=だから魅力」という感じがするからであり、外向きにはそのメッセージでよくとも、企業内においては、見える技術、分かっている技術を使って優れたコンテンツを作っていくことが必要であるとし、以下のような文字に置き換えてパネルディスカッションを結んだ。

安田教授が最後に示したスライド。「魅」の文字が変わっている

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