以下、最後となるが、これまでの説明で触れられなかった各機種ごとの留意点を補足したい。
●N900iL
N900iLでは、WLAN方向へのRTP送出(ジッタバッファから押し出す)間隔がビーコンに同期する実装になっているようだ。このため、APのビーコン間隔を500msecにするとRTPを大幅にロストするようになり、ほとんど会話ができなくなってしまう。このため、N900iLではビーコン(DTIMではなく通常のビーコン)間隔を100msec以下の間隔にしなければならない点に留意してほしい。
つまり、例えばビーコンを240msec間隔にした場合には、ジッタバッファもデフォルトの100msecから240msecに引き伸ばす必要がある(ジッタバッファの値は最小40msec〜最大240msecで、20msec刻みで設定できる)。
逆にいうと、ビーコン間隔を240msec以下に調整できないAPは採用できないということにもなる(普通のAPなら100msec間隔前後のはずだが、100を越えているようならジッタバッファもそれに合わせて引き伸ばす必要がある。半面、遅延時間が増すためお勧めはしない)。また、N900iLはSIPサーバに対する冗長化機構は実装されていない。しかしながら、プロファイルごとにサーバを設定できるようになっているため、メイン系のサーバダウン時には、スタンバイ系プロファイル用のSSIDが稼働するような仕組みを組む(高度なインフラを設計する)ことで、二重化に対処することも可能である。
●E02SA
先のL3(レイヤ3)ハンドオーバーの記事にも書いたが、E02SAは、通話途中のL3ハンドオーバーには対応していない。したがって、そのような用途が必要な場合、無線LANスイッチによってL3以下を変化させない機構が必ず必要になる。ただし、L2ハンドオーバーや、待ち受け状態でのL3ハンドオーバーには対応できている。このため、その範囲に利用を制限できるのなら、別途無線LANスイッチは用意する必要はない。
なお、E02SAはSIPサーバの冗長化には対応していない。また、接続プロファイルごとに接続先サーバを変えるという設定も行えない(共通設定になっている)ため、N900iLのような手法で冗長化に対応することはできない。しかし、N900iLとは違って公衆接続できない端末は販売されていないため、待機系SIPサーバ側で必ず公衆番号(090や080番号)への転送を行うようにしておけば、実害はないと考える。
●WIP-5000
Webブラウザからの設定機能は提供されているが、証明書のインストールだけはブラウザから実施できない。したがって、EAP-TLSなどの証明書のインストールを必要とする認証手順を用いる場合には、上記2機種と同様に専用のインストーラが必要になる。
日立コミュニケーションテクノロジー IPネットワークセンタ 開発部 SIP:OFFICEグループ技師。1986年、日立インフォメーションテクノロジーに入社。以来9年間データベース関連製品のプログラマーを経験し、1995年からネットワークSEとして多数の大規模ネットワークの構築も経験。さらに2003年から自社VoIP製品である「SIP:OFFICE」の開発に従事。2006年10月より事業統合により同社に転属。難解な技術を平易な言葉で表現することには定評がある。燃料は酒。これがないと走らない。
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